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震 天 動 地
苦虫を噛み潰したような顔で「久我班部屋」に現れたのは、生安1係の近嵐係長──ではなく、久我班長その人だった。
「なんだ、珍しく仏頂面だな」
頬杖をついて、1本指でパソコンのキーボードをぽちぽち打っていた椎野が、目だけを久我に向けた。
「君ほどじゃないよ」
疲れたような足取りで自分のデスクに向かい、どさりと椅子に体を沈める。身長184センチ、体重79キロの巨体を受け止めた椅子が悲鳴を上げた。
「志馬君と明智君は?」
「志馬は街へ巡回に、明智は刑事課へ偵察に」
「すると刑事課に大きな桃が、どんぶらこっこー、どんぶらこー」
「ふざけてんのか」
「二人きりだね、椎野君」
「気持ち悪い言い方するんじゃねえよ」
「セクシーポーズで私を癒してくれないか」
「意味わかんねえ」
「ママ! ウィスキー、水割りで!」
「誰がテメエのママだ」
久我の妨害工作によって完全にやる気をなくした椎野は、書けた分の報告書(約150文字)を保存してパソコンをシャットダウンした。
「……で、ヤツは吐いたのか」
頬に当てていた手をこめかみへとずらし、更にだらけた格好になった椎野が、眠そうな目で久我に尋ねた。少し長めの漆黒の前髪が頬にかかり、透き通るような白い肌を際立たせている。
「おおお、いいねいいね、その悩ましい視線。ちょっとネクタイゆるめてみようか」
「なあ。そろそろ殴っていいか?」
「なんだ、付き合い悪いな」
久我が悲しげにため息をつく。
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