目が覚めたら、灰になってた

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 薄汚い廃屋から出れば暖かい陽射しが俺を歓迎する。目の前には美しい草が敷かれた黄金比な丘の起伏が広がっていた。まさに大自然って感じだ。ちょっと強めだが心地よい風も吹いている。一体ここはどこなんだ? まあ散歩にうってつけなのは間違いない。鼻歌を歌いながら俺は斜面を降りていく。なんて柔らかく力強い大地なんだ。やはり地球という星は素晴らしいな。このような尊いものを生み出したうえに、今でもしっかりと自分の身に繋ぎとめてハグをしているんだからな。宇宙一の偉人……いや偉星だ。讃えよ地球。讃えよ大自然。ほら、素晴らしい鳥のさえずりが聞こえる。いいな、俺も混ぜてもらおう。ららら~ら~ら~ら~らら~ 『あ』 『……』  人だ。人がいる。沼の畔で座り込んでいる人がいるぞ。……いや? 本当に人か? 人にしては白すぎないか? 好奇心のままに近付けば、そいつはやっぱり真っ白な人だった。俺と同じような真っ白な人……まさか、仲間か? 俺はアッシュヒューマン第一号じゃなかったのか。くそっ、先を越されたぜ。  とはいえ、仲間がいるというなら敵対する意味はない。何故なら仲間なんだからな。 『驚いたな、まさか仲間がいたなんて』 『……あなたは?』  話しかけたらその人はどうやら女性のようだ。ふむ、女性か。なら俺がアダムの可能性はまだ残っている。それならいい。 『向こうから来た。そういう君は?』 『……さあ。特に覚えてないわよ。気が付いたらここにいたの』 『それは記憶喪失ってやつか? 大変だな。まあ、俺も記憶喪失だけどな。ははは』 『……変な人。まあ、人っていうか……そうね、人ね』  女がまじまじと俺を見てくる。お? なんだ? 俺に惚れたか? よしてくれ。でもそうだな、せっかくだからファンサービス、かっこいいポーズの一つでも取ろうか。と、思って俺がポーズを取ろうとしたと同時に、女はまた沼の方に目を逸らした。なんだ。照れたのか? 『……何も覚えてないとは言ったけど、ずっと後悔みたいなものはあるの。それがなんなのかは分からないけれど』 『はあ……? 分からないなら、後悔する必要もないんじゃないか?』 『そうかもしれないけど。でもずっと後悔しかないのよ。今の私にはもう、それしかない』  女は沼のずっとその先を見つめている。俺もなんとなくそっちを見たが、そこには何もない。同じような草地が広がっているだけだ。そんなところに、女が言う後悔なんかあるように見えないが。 『じゃあその後悔の元を探しに行けばいいじゃないか?』 『えっ?』 『元が分かればすっきりするかもしれないだろう?』 『……でも怖いわよ。何があったのか、何が待ち受けているのか、全然分からないのよ』  なるほど。たしかに何があるのか分からないのは怖いな。俺だってこう見えて昔は、いるのかいないのか分からないお化けにチビってしまって、一人でトイレに行くのも怖がってたぐらいだ。今だってお化けは怖いぞ。一人で肝試しなんか死んでも嫌だからな。でも二人なら大丈夫。誰かがいるってだけで心強くて、お化けもはっ倒せる気持ちになれる。 『よし、俺も行こう』  どうせ俺も散歩してただけで暇だしな。二人いれば後悔なんざ怖くないだろう。それに迷える仔羊を放っておくのは俺の信条に反する。 『はあ?』 『何、散歩のついでだ。一人より二人のが楽しいしな。それに二人ならきっと怖くないぞ!』 『はあ……なに、あなた。本当に変な人ね』 『はは、誉めるのはよしてくれ。で、君の名前は?』 『全っ然褒めてないわよ……』  女は俺の言葉があまりに嬉しかったのか感嘆の溜息をついた。そんなに喜んでくれるとさすがに照れる。 『……シオリ。そういうあなたは?』 『俺か? 俺は……』  名前。そういえば俺の名前はなんだっただろうか。別に生まれも育ちも人生も何も覚えてなくても気にしてないが、さすがに名前は思い出さないとまずいだろうな。ううむ。名前。名前……名前名前名前…… 『……ああそうそう! アキラだ! 俺はアキラ。よろしくな、シオリ!』  そうして俺とシオリはしばらく一緒に楽しい楽しい散歩をしたわけだが、その話はまた別のおはなしってやつだ。
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