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それから、いったいどのくらいの時間が経っただろうか。
――この場所で、わたしはきっと、『何か』をしなければならない。
……そんな予感はあったのだけれど。具体的に何をすれば良いのか分からず、わたしは結局何をするでもなく、その場に座ったまま、ただぼんやりとしていた。
そっと、お腹の辺りを撫でてみる。
普段ならば当然のように訪れる、『何かを食べたい』という感覚や、『トイレに行きたい』という感覚が来る気配は、ない。
そのままごろんと床に寝そべって、目を閉じてみる。眠る事は好きだけれど、今は、全然眠くない。
辺りはとても静かで、なんの音も聴こえなかった。
――と。
「――ご気分は、いかがですか?」
まるで不意打ちのように耳に飛んできたその声に、わたしはびっくりして、跳ね起きた。
見ると、先ほどまでは確かに誰もいなかったはずの場所――わたしの傍らに、まるでずっとそこにいたかのような自然さで、小さな子どもが座っている。
男の子なのか、それとも女の子なのか……それは分からなかったけれど、その子は、とても可愛くて。
そして、『ここにいるのは、自分ひとりじゃなかった』『誰かと逢えた』という事自体に安堵して、わたしは、自身の顔が綻ぶのを感じた。
「ねえ。あなたは……『天使』、……なの?」
小さな声で訊ねてみる。
そのまま――あまり躊躇もせず、「わたしは、多分、『死んだ』のでしょう?」と続けた。
「…………」
わたしの質問に対して、その子は返事をせず、ただ、穏やかな表情を浮かべるだけだった。
けれど、その言葉を口に出してみた事で、わたしの中で、それは確信に変わる。
どのような経緯があったのか。
わたしが、どのようにして『この場所に来た』のか。
……それは正直良く憶えていないし、記憶もおぼろげで、ぼんやりとしているのだけれど。
でも、わたしは確かに生きていて。
確かに、生きて、いた。
それだけは、はっきりと分かったのだ。
じっと、その子の顔を見つめる。やがてその子は座ったまま、顔を天井に向けた。
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