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「ここ……とても、きれいな場所でしょう」
「……えっと。……そう……かな」
わたしはもう1度、辺りを見回した。
黒、青、赤、黄、緑。そして、白。
天井や床を含めて、辺りはいろいろな色で埋めつくされている。
それは、まるで絵の具のたっぷり乗ったパレットを、そのままひっくり返したかのようで――いつだったか、美術館かどこかで見た、抽象画にとても良く似ていた。
ただ、残念ながらわたしにはそういったものを『きれい』と思えるような美術的感性がなかったので、「ただのラクガキ」とか、「絶対わたしでも描ける」とか、その程度の幼い感想しか湧かなかったのだけれど。
……こうしてじっくり見てみると、なるほど確かに、心のどこかが揺れ動くような、吸い込まれそうな、そんな気がしないでもない。
「……ここは、天国なの?」
ぽつりと言う。
もしそうならば、なんと言うか、わたしが考えていたイメージとは、だいぶ違う。
すると、その子は先ほどと同じように、可愛らしく笑って――「そうかもしれませんし、そうではないかもしれません」と曖昧な返事をした。
そうして、いったいどこから取り出したのか、真っ白くて、小さな丸いものを、そっとわたしに手渡してくれる。
……これは、なんだろうか。
一瞬、『おまんじゅう』や『マシュマロ』というのを連想する。
ただ、これはもう少し固くて、弾力があって、つるつるとしていた。
「……けしごむ?」
言った後で、「……ゴム、ではない気もするけれど」とつけ加える。
でも、わたしが知っているそれらしきモノの中では、1番近いと思った。
「ねえ。これは、何? わたしは、何をすれば良いの?」
わたしは膝をかかえながら、それを持った手を、その子に向ける。
――と。その時、その白い『何か』が手からするりと抜けて、床に、落ちた。
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