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床をこする度。いろいろな想いが、思い出が、頭を巡って、光になって――そして、一瞬にして、消えていく。
まるで、眠っている時、確かに観ていた夢を、起きた時には忘れているように。
――幻のように。
『わたし』が、あふれては、消えていった。
「…………」
指が、止まる。
それとほとんど同じタイミングで、その子の指先が、そっとわたしの頬に触れた。
「……続けてください」
「……、……で、も……」
もう、無理だ、と思った。
だって、こんなの、こんな事、無理に決まってる。
「…………」
つらくて、声が出なくなって。
その場でうずくまってしまったわたしを包むように、その子は、もう1度、「続けてください」と言った。
そうして、わたしの頭を、ゆっくりと撫でてくれる。
――あたたかくて、あまくて。
やさしいにおいがした。
「……ほんの少し先の、未来。あなたは、また、生まれ変わります。
今までも。これからも。
ずっとずっと、そうして、生きていきます。
そのために、あなたは、『今』のあなたを、すべて、消さなければなりません。
あなた自身の、力で。
それが、生まれ変わるという事です。
それが、生きるという事なんです」
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