・わたしの中で。

6/7
前へ
/8ページ
次へ
―― ― 生き物は、何度も生まれ変わる。そうやって、セカイは回っている。 それは誰の意志でもなくて、セカイはただそういうものなのだと、ずっとむかし、『誰か』が教えてくれた気がする。 けれど、生きていた時の記憶が、想いが、意思が、生まれ変わる度になくなってしまうのだとしたら。――次に生まれてくる『わたし』は、本当に『わたし』と言えるのだろうか。 死んで、消えて、生まれて――それでも、『わたしは生きている』『生きていた』と言えるのだろうか。 その子が見守ってくれている中で、静かに光の線を(えが)きながら。思いを口にしてみる。 するとその子は、「あなたは、ずっとあなたです」と、やわらかく言った。 「ワタシは、ずっとずっと前から、『あなた』の事を知っています。ずっとずっと、あなたはあなたのままです」 「……そう、なの? ……でも。それってわたし自身が憶えていなければ、やっぱりあまり意味がない気がするんだけれど」 それに、いくら『そういうもの』だとしても、こうしてすべての思い出たちを、大切なものたちを、『わたし』の中から消さなければならないというのは、あまりにも、つらい。 そう言うと、その子は小さく首を振って、「消えるわけではありません」と笑った。 「忘れるだけで、消えるわけではありません。 生き物は、生きている間、たくさんのものに、たくさんの影響を与えながら、与えられながら、生きているんですよ。……きっと、あなたが思っている以上に。 あなたの楽しかった思い出たちは、同時に誰かの楽しかった思い出として、(のこ)り、それがなんらかのカタチで、ずっとずっと、どこかに()り続けるんです」 「それが、どんなに小さい事でも?」 「どんなに小さい事でも。 ……だから、そんなに悲しい顔はしないでください」 わたしの涙を、その子が、そっと、ぬぐう。そのせいで、止まりかけていたものが、また、一気にこみ上げてくる。 わたしは、少しだけ手を止めて、その子を抱き寄せた。 「…………」 そのまま、力いっぱい、ぎゅー、とする。 苦しかったのか、その子が「うええ」と、天使らしからぬ声を出したので、思わず、笑ってしまった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加