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生き物は、何度も生まれ変わる。そうやって、セカイは回っている。
それは誰の意志でもなくて、セカイはただそういうものなのだと、ずっとむかし、『誰か』が教えてくれた気がする。
けれど、生きていた時の記憶が、想いが、意思が、生まれ変わる度になくなってしまうのだとしたら。――次に生まれてくる『わたし』は、本当に『わたし』と言えるのだろうか。
死んで、消えて、生まれて――それでも、『わたしは生きている』『生きていた』と言えるのだろうか。
その子が見守ってくれている中で、静かに光の線を描きながら。思いを口にしてみる。
するとその子は、「あなたは、ずっとあなたです」と、やわらかく言った。
「ワタシは、ずっとずっと前から、『あなた』の事を知っています。ずっとずっと、あなたはあなたのままです」
「……そう、なの?
……でも。それってわたし自身が憶えていなければ、やっぱりあまり意味がない気がするんだけれど」
それに、いくら『そういうもの』だとしても、こうしてすべての思い出たちを、大切なものたちを、『わたし』の中から消さなければならないというのは、あまりにも、つらい。
そう言うと、その子は小さく首を振って、「消えるわけではありません」と笑った。
「忘れるだけで、消えるわけではありません。
生き物は、生きている間、たくさんのものに、たくさんの影響を与えながら、与えられながら、生きているんですよ。……きっと、あなたが思っている以上に。
あなたの楽しかった思い出たちは、同時に誰かの楽しかった思い出として、遺り、それがなんらかのカタチで、ずっとずっと、どこかに存り続けるんです」
「それが、どんなに小さい事でも?」
「どんなに小さい事でも。
……だから、そんなに悲しい顔はしないでください」
わたしの涙を、その子が、そっと、ぬぐう。そのせいで、止まりかけていたものが、また、一気にこみ上げてくる。
わたしは、少しだけ手を止めて、その子を抱き寄せた。
「…………」
そのまま、力いっぱい、ぎゅー、とする。
苦しかったのか、その子が「うええ」と、天使らしからぬ声を出したので、思わず、笑ってしまった。
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