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・わたしの中で。
――怖くは、なかった。
そう言い切ったら、きっと嘘になってしまうと思う。
けれど、『目を覚ましたら、見知らぬ部屋の中にいた』というこの現状に、わたしがそれほど驚かなかったのは……うっすらと目を開いたその瞬間、ここがどこなのか、なぜこんなところで眠っていたのか――そういった疑問たちの答えを、心のどこかで理解してしまったからだろう。
「…………」
目をしばたたかせながら、おもむろに、片腕をあげる。わたしはゆったりとした、真っ白な薄手のローブを身にまとっていた。
特別意味もなく、2度3度、袖をはたはた振ってみる。
まどろみの中で、静かに覚醒していくのを感じながら。わたしはゆっくりと状態を起こして、そのまま、天井を仰いだ。
「……。うわ……」
意識をしていたわけでもなく、口からそんな言葉が漏れる。
『部屋』と一言で済ませてしまうには、あまりに広い……それこそ、どこかのコンサートホールや、どこかの競技場を連想させるかのような空間の中心に、わたしはいた。
――壁も。
天井も。
『ある』という事は分かるけれど、わたしが今いるこの場所から、いったいどのくらい離れているのか、見当もつかない。
辺りには本当に何もなくて、そのせいで、部屋の広さが更に際立っているようにも思える。
その広さを確かめるように……わたしはもう1度、いくつか声を発してみる。
けれど、す、と――それらはまるで雪のように、一瞬で辺りに溶け、消えてしまった。
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