2_1月1日の記憶 俺の昨日は

1/1
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

2_1月1日の記憶 俺の昨日は

 俺の記憶の最後の日は元旦になる。  毎年のように大晦日から元旦というのはほぼ丸1日勤務となる。田舎町とはいえ帰省した人物や静音の影響で毎年そこそこの人数が参拝に来る。その為警備が必要となり警官の俺を筆頭に町の同年代も手伝いに参加してもらっていて静音もその一人だ。  女性に夜の警備が危険という声も外部からは上がるが学生時代に俺が静音に殴られたりしているのを見ている同年代からは全く賛同の声があがらない。むしろ戦闘力だけなら筆頭だ!    他に年末年始を共にする女性に神子柴薫(俺や静音はミコとあだ名で呼ぶ)というクラスメイトがいるが、この神社の神主が父親である為巫女として励んでいる。  神社側との調整はミコを通して行えるので警備との連携がとてもしやすい。    ちなみに一番警備に集中しないといけない時間帯は年明けよりも大晦日23時から年明けカウントダウンを行う、静音とミコのトークショーの時間帯だ。これを目当てに県外からも来ている人も少なくなく、注意がトークショーに集中してスリ等が起きやすい。  年明けから暫くして場が閑散としてくる頃、眠気覚ましのコーヒーを飲みながら巡回しているとふと県立O市南高校の制服を着ている少女が目に付いた。  昔の俺たちの母校というのもあるが、初詣に制服で来るというのも珍しかったのが大きな理由だ。   「何となく楽しそうな気がしたから、来てみたの!」  聞いてみると少女はそう答えた。静音とミコのトークショーの噂を聞いて勉強を抜け出してきたのかと思った。受験生なら年が明ければ直ぐに勝負の試験が待っているのだから息抜きというのは不思議じゃない。…制服でさえなければ。   「じゃあアッキー、私のお願い聞いてくれる?」  少女は応えてくれない神様にお願いをするのが性に合わないらしく、身近な警官の方が実感がわくと言ったので、聞くだけは聞いてみようと思った。叶えられるかどうかは別として。 「お巡りさんになってみたいかな!?」  実際に叶えられるかはどうかはともかく、俺が勤務している交番なら静音もたまに手伝いをしているのだから、それくらいの手伝いをしてもらう事で夢を叶えるように頑張ってもらえたらなと思った。  どこまで真剣に警官としての業務を俺が遂行しているかを考えると微妙な部分があるが、純粋に警官に憧れを持っている人の手伝いならしたいと思う。  この少女もクラスメイトが警官を目指している姿を見て興味が出たと言った。    と言っても夜に制服姿の少女を放り出す等さすがに不安になる。無線で他の警備をしている仲間に連絡を入れて送る事にした。  本来なら静音が適任なのだがまだ人がいる間は売り子を手伝う事になっている。トークショーの影響で静音目当てで来た人物がクレームを入れた事があった。それ以降戦闘力を必要としない場合には売り子をする事が神社との取り決めになった。  静音も無線を耳に付けているのだが、俺の連絡を聞いた時に「送り狼になったら分かってるわね~?」と猫撫で声で言ってきた。思わず後ろを振り返る程の恐怖を感じた。  親戚が住んでるマンションに泊めてもらう事になってると言ったので、マンションまで送る道すがら警察として行っている業務(静音案件は当然除外)をいくつか実際の事も交えて話した。  口ぶり以上に警官になりたいという思いが強いのか嬉しそうな顔してくれたのは、話している俺としても楽しかった。ただ、嬉しそうな顔をした後に見せる憂い顔がとても気になった。  まるで、叶えられない未来を想像し悲しんでいるような儚げな顔だった。 「じゃあアッキー、明日行くね!」  マンションに到着すると手を振りながらそう言ってマンションの中に入っていく。  達成感を覚えながら、夜明けまでの警備の続きをしようと仲間の待つ神社に戻るとする。    眠気で頭が鈍っているせいか、少女と話している最中には気にならなかった事が気になった。  (俺は自分の名前を教えたっけ?)    眠い頭で覚えてないだけだよな。そう思って自販機でブラックコーヒーを買って飲んで夜明けまでのラストスパートに集中するために眠気を飛ばす。  ………でも、自分で自分の渾名を紹介した事って一度もない気がする。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!