葬式で見た君とお前

3/3
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
 もう終わった。今の俺に出来ることはやり終えたはずだ。宿題は残っているけど、それもいずれは時の流れによって難易度も下がってくれているだろう。  俺は和樹の写真から背を向けるように振り返る。いつの間にか下を向いていた顔を正面に起こす。  会場には相変わらず人気(ひとけ)がなかった。だから、気付かなかった……和樹の写真の前にもう1人いたなんて…… 「語梨ちゃん、久しぶりだね」  俺は視線の先でどんよりとこちらを見つめる語梨ちゃんに声を掛ける。語梨ちゃんは和樹の妻であり、俺達の元学友だ。 「一週間前に病院で会いましたよ……和樹さんの病室で……」 「そうだったね……何だか病室で会ったのが遠く昔の出来事だったように思えてな……」  酷く沈んだ語梨ちゃんの表情は、これ以上何も和樹の事に触れるべきじゃないと訴えかけてくるようだった。 「今日は和樹さんの葬式に来てくださりありがとうございます。和樹さんもきっと喜んでいると思います」  いや違う。語梨ちゃんは俺より和樹の死と向かい合ってる。それなのに俺は…… 「語梨ちゃんがそう言ってくれるくれると、まるで和樹もそう思ってくれてるんじゃないかって思うよ。それじゃあ、俺はもう帰るね。何か困った事があったら連絡して、すぐに駆けつけるから」  俺は逃走した。語梨ちゃんのように向き合うだけの気持ちは俺にはなかった。黒髪のショートカットから見える語梨ちゃんの明るい表情に励まされるだけの情けない男だった。 「はい。その時はお願いします」 「おう!任せておきな」  小さなやせ我慢を見せて俺は会場を後にする。最後に見せた語梨ちゃんの微笑みに何か懐かしさを思い出した。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!