食堂への来訪者

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食堂への来訪者

コンコンコンコン  包丁片手にぶり大根に使う大根を切り刻む。実家の食堂はまだ11時とあって客はおらず、父と息子の包丁の音だけが小さな食堂を包んでいた。 ガラガラ 「いらっしゃいませ!」  スライド式のドアが開くと同時に、大きな声が出てしまう。田舎の街で食堂をやっている者なら普通の事だが、俺は店に入ってきたお客を見て後悔した。 「相変わらず空いてるわね!」 「やっぱりお前か!明日花、この暇人め!」  店に入ってきた幼なじみの明日花にいつも通りの応答をする。俺と同い年の明日花はこの街の酒屋の1人娘で、高校生の時からバイクに乗って御高齢の方へ酒を配達している。 「暇じゃないわよ!ここのお隣のおばあちゃんの家に酒を届けてきたばかりなんだから!むしろ、こんなに空いてて暇そうなのはそっちでしょ!」 「時間帯を考えろ!まだ食事時じゃないだろ!それにここも過疎化が進行してるんだから客が少なくて当たり前だろ!」 「過疎化を言い訳しちゃダメでしょ!おじいちゃんおばあちゃんがまだまだいっぱいいるんだから、うちの酒屋と同じように出前サービスでも始めればいいでしょ!料理だって勇太が作るよりおじちゃんが作った方が美味いんだから、勇太が出前に出ても問題ないでしょ!」 「よう言った!明日花ちゃん!一品サービスしたるで!」 「親父……」  隣で一緒に仕込みをしていた親父が上機嫌に笑っていると、明日花は小さな厨房が見えるカウンター席に座った。毎度のことながら親父は明日花に弱い。お陰様で明日花と言い合いを始めると、必ず思わぬ支出が発生するのだ。
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