食堂への来訪者

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 明日花の注文を終えたので再び厨房に戻る。さて、次の客が来る前に日替わりメニューのぶり大根でも作るか。 「ちょっと待ちなさいよ!幼なじみ兼お客を放っておく気!?」 「放っておくも何も、話す用事がないんだからここにいる必要はないだろ」 「こっちにはあるの。話す用事ー」  はぁ……仕方ない、はなはだ不本意だが話でも聞くか。俺は握っていた包丁とぶりを置いてカウンター席の前に戻る。 「で、話す用事って何?」 「不機嫌そうね。客商売なんだからもう少し愛想笑いでもしたらどう?」 「こうですか、お・きゃ・く・さ・ま!」 「うーん、怖い。子供が見たら通報すると思うよ」  無理やり作った愛想笑いがボロボロに崩れ落ちていく。それとは対照的に明日花の笑みが小悪魔じみたものへと変貌していく。明日花の玩具になっていた俺は目の前の悪魔へ反抗する事にした。 「ふざけるなよ……誰が好き好んで愛想笑い作ったと思ってるんだ!」 「まあまあ、気にしない気にしない!勇太は職人気質なんだから表情や話し言葉より料理や手紙の方が相手に思いが伝わると思うよ」 「話を誤魔化すな!用件を早く言え!お前と違ってこっちは暇じゃないんだ!」  ニヤニヤ笑っている明日花に怒鳴る。間違いなく俺の顔は鬼の形相になっていたと思う。自分の仕事を邪魔されて、おちょくられれば機嫌が悪くなるのは当たり前だ。
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