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デジタル全盛の今の時代になっても、DIY御用達のホームセンターは、それなりに繁盛していた。客の一人が、白いペンキ缶をサービスカウンターに置いて、中にいた店員に尋ねた。
「このペンキ、もっと無いか?」
「少々お待ち下さい」
店員は慣れた手つきで商品のバーコードを読み込んでからPCの画面を確認して告げた。
「大変申し訳ございません、こちらの商品は棚にあるだけとなっております」
「注文は?」
「大変申し訳ございません、こちらの商品はもうすでに廃番となっておりまして、注文も承れない品となっております。別メーカーの別商品でしたら承れますが、いかがいたしましょう」
「……」
白なんて、どこのメーカーが作っても同じだろ。客、伊集院司は店員の勧めを断り、棚に並んでいた白いペンキを根こそぎ買ってから帰宅した。
元々は映画音楽を大音量で楽しめるように作られた地下室の壁は、コンクリがむき出しの殺風景な作りだった。
「どうせなら壁紙を貼るとか、それぐらいすりゃよかったのに…」
床にペンキが零れても平気なように新聞紙を敷き詰めながら、司は一人ぶつぶつと呟いた。この家は元々亡くなった伯父、司の父の兄、のもので、司が相続してつい最近引っ越してきたのだ。
「白だと汚れが目立つかな…」
まあでも、他の部屋も壁の色は白で統一してあったから、地下室の壁も白でいいだろう。
そんなことを考えながら白ペンキを壁に塗り始めたのだが、塗り始めてすぐ、奇妙な凹凸に気が付いた。「……?」
見た目では平らなのに、ペンキをたっぷり含ませた刷毛を滑らせると、何故か不思議と刷毛が上下する箇所があった。
「…壁の中になんか埋めたのかよ、伯父さん…」
司はひとり呟き、そのまま黙々とペンキを塗り続けて壁一面を真っ白に塗ったのだが…。
「……!」
塗り終わってすぐ、壁の凹凸が丁度人の形をしていることに気付いた。
「伯父さん、まさか…」
司が恐る恐る人型の凹凸に触れようと手を伸ばすと…壁が動いた。
「うわっ!?」
司が思わず手を引っ込めたが、白く塗られた壁は動き続け、司の腕を掴んだ。
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