エルゴ領域にて

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『君が次に目覚めた時には、私達と同じ存在になっているだろう』 遠く意識を失う直前、わずかに覚醒する自分の意識はそんな声を聞いた。 白熱する光の奔流の中で聞いた声。 (無理だ、ここはエルゴ領域。私の宇宙船にはもう、この先に待つ蟻地獄の果てから抜け出す燃料も手立ても残されていない) カー(自転する)・ブラックホールが作り出す高温プラズマの円盤、降着円盤の外側にあるガス・トーラスの観測・実験に高給だからと飛び付いた自分が愚かだったのだろうか。サイバネティック・オーガニズムの身体を無料で支給され、保存された有機質体である身体への再移行をも約束された都合の良さに。 ブラックホールの自転エネルギーを抜き出すメカニズム。ペンローズ過程の実験の為にAIと深く繋がる手術を受けてまで赴いて来たのに全ては無駄足となった。 カー時空にあるエルゴ領域内を通過する軌道で物体を打ち込み、その途中で二つに分裂させ、一方を逆行方向へ軌道修正させる事でエルゴ領域外へ飛び出して来るもう一方へ、打ち込んだ時よりもより大きなエネルギーを持たせる実験は上手く行った。 続いて行われた磁力線を利用してのエネルギーの取り出し、こいつが失敗したのだ。先の実験の成功に、どこかで気を緩めたせいもあるだろうか。
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