キョア・シラスの日常

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 普段だったらここら一帯は、人の寄り付かない自然の地となっている。しかし人間たちは土足でそのまっさらな大地を踏みにじるのだ。巨神とは、虚栄心に満ちた彼らの揶揄かもしれぬと思えば、少しはこの巣に古くから住まう動植物たちも気が晴れるだろう。  キョア・シラスは一見するとなんの生命も宿らない不毛の大地というイメージであり、現に観光客の大半は、この土地の荒廃した姿を目当てに興味本位でやってくる。研究者たちもこの世界には生物のひとつの痕跡も見出せない場所として調査を進めている。極めつけは、有名なハリウッド監督が、映画の撮影でこの土地を月に見立ててしまったことだ。しかもそのストーリーはこじつけの創作神話を取り入れたもので、巨神たちが月でひたすらバトルするというものだ。  けれどもぼくらに言わせれば、この土地は他の森林と対してかわりばえすることのない世界だ。目をこらして見てみれば、ここは決して生物のいない月のような世界ではないことがわかるのに。この場所の生態系は、実は多くのふつうの森林とほとんど変わることのない世界なのだ。
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