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キョア・シラスの日常
なんとはなしに、ぼくはいつものように、画面をのぞいてみたんだ。
そこに映っていたのは、いつものように変わることのない平凡な世界のライブ映像。ぼくは、その一年中かわりばえすることのない退屈な風景をさっと確認すると、ため息をひとつついて、朝の仕事の準備にとりかかった。
ぼくらにとってはなんの変哲もない日常だ。けれども遠く異邦の島国の民にとっては、この景色は神にも匹敵するほど価値のあるものだという。彼らの多くは無宗教だというから、驚きだ。
都市に住む利己的な人間の考えることはよくわからない。
彼らはこの土地にいつのまにか現れ、定点カメラを置いた。そのカメラの映した映像を、全世界に発信すると言って、一年に一度やってくるのだ。なんでも母国では有名な大学の教授や助教授、大学院生たちで構成された研究グループらしい。
動画投稿サイトに映像がアップされると、すぐにこのぼくらの平穏なふるさとは、世界中の旅行者らの注目の的となった。様々なツアーが企画され、ぼくらの仲間のいく人かは、観光業で生計をたてるようになっていた。
この場所は“キョア・シラス”という名前の場所だったが、いつのまにやらこじつけの神話が足されて、“巨神の足で踏みつぶされた巣”という誤訳がつくようになる。
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