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「お客様、間もなく着陸致しますので席を起こして頂けますでしょうか?」
CAから声をかけられて目が覚めた。この便に乗る為に、前日は徹夜して仕事を片付けた。疲れが出たのだろう、機内アナウンスにも気付かなかった。
通路側の席に座っている私からはチラッとしか見えないが、窓の外は白かった。
「ニューヨークは雪か……」
隣の席の大学生らしい若い男性が、怪訝そうな顔をした。しかし気が急いている私は、それを気に留める余裕はなかった。早く飛行機を降りて、麻理恵の元に行かなくては。
「私、結婚します」
彼女が私の部屋を出て行ってニューヨークにいると知ったのは、結婚式の「宣告状」でだった。「招待状」ではない。一方的に残酷な事実を告げて来たその手紙は、まさに「宣告状」だった。
「麻理恵、何故なんだ……」
出て行く前日まで、普段と変わらない様子だった彼女の突然の裏切り。受け入れられない私は、週末の結婚式に乗り込む覚悟を決めて急遽休みを取り、日本を飛び立った。
滑走路に吸い込まれるようにスムーズな着陸だった。私はシートベルト解除OKの電子音が聞こえるか聞こえないかのタイミングで席を立ち、飛行機を降りた。その途端、違和感を感じた。
ジョン・F・ケネディ空港は、巨大空港じゃなかったっけ? それに、高層ビル群などがターミナルの窓から見えると思っていた。ニューヨークの玄関口に位置すると言っても、アメリカは広い。だから周りはこんなにだだっ広い、何もない景色なのか? いや、待て。えらい高い雪山が見える。それに、ターミナルも世界有数の空港にしてはショボい。ショボすぎる。
「あの、ここはジョン・F・ケネディ空港ですよね?」
横を通り過ぎるアメリカ人らしい女性に尋ねた。彼女は、眉をひそめて通路の壁にある看板を顎で指し示した。
観光協会の看板らしかった。そびえ立つ雪山の写真の下に、
「アラスカ。アンカレッジ――」
という文字を認めた。
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