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「……何、今の……」
思わず、隣の主人を見る。
「何って逆走だろ。またどっかの高齢者が道間違えて入ったんじゃない?」
「えっ? 今の……車?」
「じゃなかったら何だって?」
「鬼、とか……蛇、とか……」
「鬼って……おいおい、大丈夫か? 黒いワンボックスだったぞ、今の」
摩訶不思議な一瞬の出来事に、見間違いだったかと思ったのだか。
覚えている。
二つの真っ赤な目。
ざんばら髪から覗いた二本の角。
彫りの深い大きな顔。
あれは一体何だったのか……。
「雪、止みそうだな」
主人の言葉にフロントガラスの向こうを見ると、白い視界に光が差し込んできた。
まだまだ雪はちらついているが、辺りは明るく視界が開け、ぼんやりとだがリゾートマンションの立ち並ぶ風景が見え始める。
「狐の嫁入り、だね」
そう呟いて、ふと考える。
もしかして。
狐に化かされた……?
「そんな訳ないか……」
越後湯沢を過ぎる頃には雪がまだちらつくものの、視界はクリアに開け、白と灰色と黒のコントラストを描く山々が連ねた水墨画のような雪国の冬の風景が広がっていた。
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