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私達を乗せた車は新潟へ向かう高速道路を走っていた。
暖房の効いた車内で微睡んでいた私は急に感じた寒さでふと目を覚ます。目的地に近付いただろうこと感じ取ったものの……いつもと様子が違う。
その光景に戸惑い、運転席に声を掛けた。
「……ねぇ、運転大丈夫?」
「……大丈夫じゃない」
隣では主人がハンドルを握り、全神経を運転することに集中させている。
フロントガラスの先は細かな雪が視界を遮り、真っ白で何も見えない。
ホワイト・アウト、だ。
右を向いても、左を向いても、後ろを向いても。
白、しろ、シロ……。
これが車の外なら--。
天を仰いでも、地を覗き込んでも。
どこを見ても果てしなく続く白に、方向感覚が狂いそうになる。
「………ごめん。帰るの、明日にすればよかったね」
帰省は今日でなくてもよかったのだ。
明日でも明後日でも。
実家へ帰るだけのことだから。
大掃除は済んでいるだろうし、おせち料理も祖母の指導の下、母と妹が作ってくれているだろう。
それでも1日も早く帰省しようと思ったのは、子供達が寂しがっているだろうから。
一週間前に冬休みに入った子供達は、雪遊びがしたいからと、一足早く実家に滞在。定年退職し隠居生活を送っている父が先日、車で迎えに来てくれた。
「いや、俺も子供達に会いたかったし。……でもこんな天気だって知ってたら明日にするんだったな……」
年末のこの時期、関越トンネルを抜けた途端、雪景色に変わるだろうことは容易く予想出来た。
雪が降っているだろうことも想定の範囲内。
ただひとつ、この猛吹雪だけは予想をはるかに超えた悪天候で。
今更ながら今日の帰省を後悔していた。
「北からの寒気が南下してくるって天気予報でやってたけど……まさか、ここまでとはね……」
赤城高原でタイヤチェーンの規制がかかり、サービスエリアを出てからは片道二車線あった道路は一車線に制限され、追い越しは禁止、高速道路だというのに時速40kmという一般道と変わらないスピードで走行している。
一定間隔にそびえ立つ誘導灯も、夜ならオレンジ色のライトが道しるべとなるのだが、昼間は灯りが消え、吹雪に視界を遮られてどこに建っているのかもわからない。
かろうじて見えるのは前を走る車の赤いテールランプのみ。
その赤いランプすら遠ざかってしまったら、前には進めないほど真っ白な空間がただ広がっていた。
こんなところで事故に遭ったらーー。
そう考え、身震いする。
もっとも、この悪天候でスピードを上げようとか、追い越ししようなどと考える車はないだろうが。
万が一、事故にでも遭った場合、この雪では救助も困難になる。
一車線の高速道路の上だ。
救助車もここまで来るに来られないだろう。
いつもなら大事に至らない事故も。
雪でスリップして大事故に繋がるかもしれない。
雪国育ちだからこそこの程度ならと安易に考えてしまう反面、誰よりも雪の恐ろしさを知っている。
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