1.曇り空

1/1
前へ
/7ページ
次へ

1.曇り空

 青春。  例えばそれは、よく晴れた春の日のように陽光が照らす、光輝く季節。  雲一つ無い空はどこまでも青く澄みわたり、時々桜の花びらが、さらさらと風に舞っていく。  まるで、希望に満ちた未来が見えるかのよう。  そこには何の憂いもない。  痛みも苦しみも、悲しみとも無縁。  ――果たしてそうなのだろうか?  そんな甘いものではない。  自らの過去を振り返ってみると、あるいは今を省みると、さてどうだろう?  思い出したくない過去だと目を背けてしまう人も、世の中には大勢いることだろう。  ままならない現実に、早く時が過ぎ去ってしまえばいいと、ほろ苦さが込み上げてくる人だって、いるだろう。  何もできなかった。  自分に何ができるのかも、わからなかった。  何をしたいのかも、確かではなかった。  どうすれば良いのかすら、さっぱりわからなかった。  自分がどこにいるべきなのか。  どこへ向かうべきなのか。  一体何が正しいことなのかすらわからないまま、ただ無為に時が過ぎ去っていくだけだった。  それなのに、若くて将来が楽しみだねと、大人は無責任に言い放つ。  青春とはそんな、生優しいものではない。  日々、未来に対する漠然とした、訳のわからない憔悴感が募るばかりだった。  思春期は、もがき苦しむ季節なのかもしれない。  恋愛に関してだってそうだ。  自分を慕ってくれる、可愛らしい彼女?  優しくて、いつも自分の事を見守ってくれる彼氏?  いない。  そんな人は、どこにもいなかった。  小説や漫画の中だけの、自分には無縁な世界。  都合のいい幻想(ファンタジー)。  青春とはきっとそんな陰鬱で、苦みに満ちたものなのだろう。  灰色に濁った雲が空を覆い尽くしている、先の見えない季節のこと。  彼もまた、そんな風に思っている一人だった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加