苦戦、そして邂逅

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苦戦、そして邂逅

 ユウの記憶には、いつか写真集で見た沖縄の海が鮮やかな色でそのまま残っていた。  己の世界が色を失うその前に、最後に残った青色を存分に目に焼き付けたい。  そんな思いが彼を突き動かしたのだ。  たどたどしく電話で呼んだタクシーで空港へ向かい、近くにいた空港職員を捕まえて何とか沖縄行きの当日の航空券を手に入れた。順調に行けば日が暮れる前には海に到着する。  そして、追い打ちをかけるように、病院から何も飲まず食わずだったことを思い出した腹がうめき声を上げる。  ひとまず水分補給を……。    幸運にも手近なところに自販機を見つけた。もちろん商品はどのようなものが並んでいるかはほとんどわからないが、喉の渇きはとにかく水分を欲していた。  ユウはよたよたと自販機に駆け寄ったが、小銭入れを取り出してからもまた時間がかかってしまう。  小銭入れの硬貨はもちろんすべてが白一色であり、オセロの石にすり替えられたようだった。重さと大きさの違いで何とか選別して入れてみたはいいが、いったい今どのくらいの金額まで入れたのか、そもそも商品の値段はどれくらいなのか、一切が分からない。  ええいままよ、とボタンを押してみたが反応もない。  自販機の前に立ってから数時間が経っているのかと思うほどの悪戦苦闘を強いられたユウ。 「どうしたの。何かお困りごと?」  柔らかい印象を受ける声がユウの背中にかけられた。
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