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移動、そして信念
空港からはタクシーでの移動となる。
目的地の海は車で数時間の道のりだ。ミイはレンタカーを借りようと提案したが、さすがにそれは遠慮しておいた。
「どうして?タクシーだと2万円くらいかかる距離だよ?」
「その、2人きりというのは流石に……」
「わーお、それもその通りだね。じゃ、タクシー探そっか」
ミイは嫌な顔一つせずにユウの手を引いていく。少し彼女に悪い気もしたが、今は確実に目的地へ着くことを優先したいのだ。
「ところで、どうしても古宇利ってところに行きたいの?もっと近くにもビーチがあるのに」
初老の運転手に行き先を告げると、彼は奇妙な動物を見るような目つきで後部座席の2人を振り返った。だからミイはそんなことを聞いたのだろう。
「特に深い意味はありません。ただ昔見た写真集の中で一番きれいだった海がそこだったってだけですよ」
「うん、それは結構深い意味だよね。このままなら日が出ている間には着きそうだけど……運転手さん、出来るだけ急いで!」
「すいません、この人のことは気にしないで安全運転でお願いします」
「……実は、一度くらい言ってみたかったんだよね。映画みたいでかっこいいし」
歯切れの受け答えをする運転手を尻目に、小声でそう言うとユウにペロッと舌を出して見せた。
「……來山さん」
「ん、どうしたの?それよりもユウ君も外見てみなよ!海キレーだよ!」
「見ながら話していますので。……それで、何でここまでしてくれるんですか?お互い知り合いってわけでもないのに」
2人はそれぞれ違う方向の景色を見ながら会話している。
「そりゃ、困っている人がいたら助けるのは当然でしょ?助けるか見捨てるかどっちにするって聞かれたら、やっぱ助けなきゃでしょ」
「……ありがとうございます。後日改めてお礼をしますから」
「え!いらないいらない!もとは私の方が善意の押し売りをしちゃったんだからさ、そんなの気にしないでいいの!」
少し困った様子のミイ。
彼女は誰かを助けるときに損得勘定だとか人間関係だとか、そういうのを一切気にしない。相手が困っている、だから助ける。彼女をここまで動かしてきたのはそのような公式なのだ。
それが分かった今、ユウは急に気恥ずかしい気持ちになる。散々ミイのことを疑ってきてしまったのだ。混じり気が一切ない親切に対して、自分のひねくれた性格が表面化してしまった。
「やっぱりお礼はします。そうでないと僕の気が済まないので」
「そお?じゃあ楽しみにしているね!」
それは、沖縄の太陽に負けないくらいの明るい笑顔だった。
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