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受難、そして疾走
「お客さん、ちょっといいですか」
空港を出発してから1時間ほど過ぎた後、運転手が言いにくそうにミイへ振り返った。
「どうしたんですか?」
「それが、この橋を渡ればもう古宇利なんですが、どうもその橋の上が込み合っているようでしてね……」
ユウは驚いた。先程からどうも車が動いている気配がないと思ったら、渋滞に巻き込まれて立往生をしてしまっていたのだ。
今ユウたちが乗っている車は前後に長蛇の列を伴いながら橋の入り口で止まってしまっている。
「あの、この橋以外に渡る方法はないのですか?」
すがるような声色で尋ねるユウだったが、運転手は首を横に振った。
「いいや、この橋だけだね。……もし交通事故だったらしばらくはこの橋は使えないな」
「そんな……」
ミイも思わず悲痛な声を上げる。
「こりゃ、また今度にした方がいいんじゃないですかねえ」
また今度。
運転手が気を遣って提案したその一言を聞いて、ユウの中で何かが弾けた。
「すいません、ここで降ります」
「ちょ、ユウ君!?」
手探りで財布を取り出したユウを慌てて手伝うミイ。ユウは焦りの表情を浮かべながらも、運転手に料金を渡す声はどこか冷静なものだった。
二人は唖然とする運転手だけを乗せたタクシーを後にして、目の前でまっすぐに伸びている橋に向かって歩いていた。長く白いそれはユウにもミイにも海に伸びる一筋の光のように見えた。
「ユウ君、もしかしなくても徒歩でいくつもりだよね?」
ミイは横に並んで立っているユウに尋ねると、彼は小さく頷いた。
「実はもう青色も薄くなってきているんです。もう、僕の目に青色が映っている時間も長くはないんです。だからミイさん、お願いです。僕を出来る限り早くあの島まで引っ張っていってください」
深々と頭を下げたユウ。驚いて一歩下がったミイだったが、すぐに力を込めた顔になった。
「もちろん!躓かないように気を付けてね!」
すぐに手を取り合い、橋へと駆け出すミイとユウ。
ユウは踏み入れた橋の先が果てしない城に染まりつつあるのを見た。
重くなる足を必死で動かす。
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