喪失

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喪失

 二人がタクシーから降りてから20分ほど経っただろうか。  足を痛めながら橋を渡り終えると、古宇利ビーチは5分もしないところに広がっていた。 「ユウ君、着いたよ……見える?」  砂浜への入り口で荒い息を整えながら、ミイは隣で同じく荒く息を吐くユウに声をかける。 「ハァ、ハァ……來山さん、本当、本当にありがとうございました」 「いやいや、そんなに何度も言わなくても大丈夫だってば」 「いえ、ここまでしてくれたのに――」  ユウは両膝から崩れ、砂に沈み込むようにうずくまってしまった。 「ごめんなさい」  伏せられた彼の顔から嗚咽が漏れる。  ミイの表情が見る見るうちに曇っていく。 「えっと、もしかして……」 「……はい、見えません。青が、青が……」  泣き出してしまうところの一歩手前で堪えるユウ。病院からここに来るまでのすべての思いが否定された気がした。いや、実際否定されたのだろう。  ユウは手のひらに鋭い痛みを感じた。顔を上げると、いつの間にか自分で自分を潰すというくらいに強く握られた拳から血がにじみ出ていた。砂に混じってガラスか何かを握り潰してしまったのだろう。  当然、ユウの目には赤い血も金色の砂もすべてが白く映る。この何もないとすら感じられる世界で、ユウは立ち上がることもできずに砂浜に埋まって消えていく錯覚に飲み込まれた。
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