紺碧

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紺碧

「ユウ君」  突然、目の前が真っ暗になる。  ユウは自らの背中に優しく重みがかかってきたのを感じた。小さな膨らみと耳元のすぐそばから聞こえる声から、ミイが彼の背中を抱きしめるように寄りかかってきたのだと理解した。彼女が両手でユウの目を覆って視界を隠したのだ。 「泣いてるの?」 「……ダメですか」 「ダメじゃないけどさ。ほら、目で見えなくても耳なら感じられるんじゃないかな」  ミイが作ってくれた暗さに、不思議とユウの気持ちは抑えられた。  するとユウは感じた。  絶え間ないさざ波の音、子供たちの声、時折混じる海鳥の鳴き声。  遠くからは橋の上で車がクラクションを鳴らし、すぐそばでは誰かが横切っていく足音。  すこし身じろぎすると、足元の砂がわずかに音を立てた。上からは風に揺れる木の葉のざわめきがあちらこちらから聞こえる。  そして、何よりも聞こえるミイの息遣い。  一言も漏らさないのがかえって彼女の呼吸音を際立たせた。  そこには海があった。海水浴を楽しむ人々を浮かべ、底が見えるほどに透き通った青い海があった。二人が目指した海だ。  ユウにはもうその色は見分けられないが、黒い視界の中に、まるで映画館のスクリーンに映されたようにかつて写真集で見た古宇利の海が彼の目の前に広がっているのだ。 「……どうかな?わかった?」 「……はい。見えました。ちゃんと、海が」 「そう。よかった……」  交わした言葉は少なく、そのまま二人はしばらく押し黙った。このひと時の風景に自分たちを刻み付けるように。  ユウはいつの間にか眠ってしまっていた。
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