膝枕

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膝枕

 ユウは覚醒した。  目が覚めた、とはいえ瞼を開けたユウは起きた実感が全くわかなかった。  ユウの視界は真っ白に染まっていた。  他の色が添えられることのない、今が昼か夜かすらわからない完全な白の世界。  ユウの瞳は白以外の色を捉えることができなくなってしまっていた。  しかし彼は不思議と落ち着いていた。横たわっている自らの頭の下にある、すこし弾力のある枕のようなものと、頬に置かれた何者かの手から暖かさを感じ取ったからかもしれない。 「起きた?」  ユウの頭上からミイの声がゆっくり落ちてくる。やはり膝枕をされているのだと確信した。  少し顔を赤らめながら、ユウは静かに口を開く 「來山さん、お願いがあります。最後のお願いです」 「ん……何かな」 「僕を病院まで連れて帰ってください」  わずかな沈黙。 「いいの?このまま他に行きたい場所に行くこともできるよ。私が連れてったげる」 「いいんです。入院中に出てきちゃいましたし。……やりたいことはしましたし、あとはこの病気とも向き合わないと」 「うん、わかった。ありがとう」 「僕の方こそありがとうございます。本当に楽しかったです。これでお別れと思うと寂しくなるくらいに」 「じゃ、これからも会いに行ったげる。毎日通って、その日の空の色とか過ぎ去った車の色とか葉っぱの色とか、たくさん教えちゃう。だから、ユウ君はこれからもいろんな景色を見ていくの」  目の前は真っ白だった。何も鮮やかさなどない一面の白。  しかしユウにはまだ見えていた。  今、目の前には透き通る海が広がる。多くの色で満ち溢れた世界が。
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