7人が本棚に入れています
本棚に追加
第6話 午前4時25分 復旧方針
リスクを頭の中でおさえながら、復旧手順の違いも考慮し、総合的に判断して、復旧方針を決めることにした。事前に矢野がホワイトボードに3案の作業時間を整理していた。
案1 プログラム戻し(5分)+システム起動(5分)=計10分
案2 パラメーター修正(2分)+システム起動(5分)=計7分
案3 一部プログラム戻し(8分)+システム起動(5分)=計13分
秋田は案2を進言した。「矢野さんが見つけた不具合を直せば、問題ないはず」という見解であった。
矢野は案3を主張した。「これまでの調査結果だけでは、他のミスがないとは断言できない。一方、案1の全戻しでは、別の影響が発生してしまう。案3にすべきである。案3で戻すプログラムは今すぐ動かさないといけない案件ではない。戻し作業の手順が少し多いが、事前に準備していたマクロもあり、実績もある。作業ミスの危険性は低い」と論理的な説明であった。さらに、矢野の冷静な表情は説得力があった。
田畑が決断しようとしたとき、自宅にいる渋谷課長から電話がかかってきた。「なに、モタモタしてるんだ!原因究明なんて後回しでいい。全戻しで、早くシステムを稼働させるんだ!」早口でまくしたてていた。冷静さを失っている声だった。田畑は「課長、待ってください!全戻しだと、法令対応など必要な機能が動かせなくなり、別の影響が出るんです」と切り返し、3つの案を丁寧に説明しはじめた。
隣でやり取りを聞いていた秋田は機転を利かせ、スピーカーフォンでずっと通話中になっている武藤へ田畑の窮状を報告した。
武藤は瞬時に判断し、秋田に「田畑へ伝えてほしい。渋谷課長への説明は俺がやる。絶対にOKもらうから、お前たちは案3の準備を進めておいてくれ」と指示をだした。秋田はすぐに田畑のところへ行き、大きな声で「田畑さん、至急です!すみません!」と、受話器の先の渋谷課長へ聞こえるように話した。田畑へ武藤からの伝言を伝え、渋谷課長の電話を武藤へ回した。
田畑はメンバー全員をホワイトボードの前へ招集した。復旧方針を説明し、役割分担を再編した。①プログラム戻しチーム、②システム稼働の準備チーム、③本番確認チーム、④情報整理チーム、⑤原因究明チームの5つへ分け、各々の作業に取り掛からせた。
時間は午前4時30分。タイムリミットまであと30分。
最初のコメントを投稿しよう!