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第一の白
目が覚めると視界は白かった。体が重い。原因は自分が一番よくわかっている。
この仕事を始めてからずっと、満足に睡眠をとったことがない。いや、合計睡眠時間に換算すれば、人並みにとれているのかもしれない。しかし丸一日まとめて寝たり、仮眠を細かくとったりと、決して質の高い睡眠がとれているとは言えなかった。私はライターをしていた。
常に締め切りに追わながら不規則な取材活動をしていると、このような生活リズムになるのはしかたのないことだった。もちろん直さなければとは思うものの、仕事を中心に生活していると健康に気を遣うのは二の次だった。
仮眠をこまめにとるようになると、私はよく夢を見るようになった。眠りが浅いのだろう。
見る夢は大抵、身の周りの人物が登場し、特にその日の出来事や回想が多かった。さらに決まってその出来事は怒られたことや自分の失敗など、苦い経験であり、私はうなされながら夢を見るのだった。
今見ていた夢もまさに嫌な夢で、今日編集長に怒鳴られた夢だった。書き上げた原稿の中身がスカスカで、書き直しを命じられたのだった。
期限は明日。まあしかし締め切りまであと10時間以上ある。帰宅し雑事を一通り済ますと私は余裕の心持ちでデスクに向かった。パソコンを開き、執筆アプリを起動する。そこでプロットを考える。すると眠くなるので仮眠をとりながら考えることにする。それが私のライフスタイルだ。
そうして眠りについたことを思い出し、うつ伏せの状態から顔を上げた。
目が覚めて見た白はパソコンの画面だったのだ。
不快な夢を見、スッキリしない寝ぼけまなこで右下の時刻を見ると、日付は翌日の十八時を回っていた。締め切りまであと一時間しか残されていなかった。
これが私の初めての寝坊の失敗談であり、夢から覚めて広がる白の世界は今後も私の首を絞めていくことになる。とりあえず今日もまた悪夢を見ることになりそうだ。白紙の原稿用紙を見つめながら私は冷や汗を流していた。
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