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「止め」
その言葉で目が覚めた。
テスト用紙を見ると、見事に真っ白。回答が成されていない、
やっば――――
周りに合わせて用紙をうらがえす。
そしてその次も、そのまた次も、起きているのがやっとという意識の中で試験を受けた。
「止め」
ほとんどが、その勢いのある声で目が覚めていた。
やってしまった――――
最悪だ……
肩を落としながら桜田君と会った。
彼は笑顔だった。
「どうだった?」
今はその言葉が一番突き刺さる。
今までやって来たことのすべてが水の泡になったのだから……
そう思うと涙が溢れてきた。
「ご、ごめんなさい、桜田君」
「どうした?」
「わたし、わたし、寝ちゃた……」
冷たい涙が頬を伝う。告白してくれた桜田君、友達だった律香、中学生活すべてを失った絶望感から私はその場にしゃがみこんだ。
「もう帰ってていいよ、私は一人で帰るから」
こんな人混みの中で、一人しゃがみ泣いている私といるのは気まずいだろう。
ここまでしてくれた桜田君にせめて迷惑だけはかけたくない。
「ごめんね、ありがとう、ごめんね」
「なんで謝るんだよ」
「だって、さ、桜田君、せ、せっかくべ、勉強、教、教えて、教えて、くれたのに……」
呼吸が苦しい、人前でこんなに泣いたのはいつが最後だっただろう――――
突然頭を押さえ込まれる。
左右に撫でられる。
「ハハハ、俺も」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔をあげると、桜田君が笑顔で私を見ていた。
「へ?」
「俺も寝てた、全教科起きたら答案真っ白、ハハハ」
「な、なんで?」
「言っただろ? お前と同じ高校じゃねーと嫌だって」
「さ、桜田君……」
手を差し伸ばしてくれる桜田君、私はそのゴツゴツした男子の手を掴んだ。
「帰ろうぜ」
「うんっ」
帰って律香にも謝ろう、そして私は律香と一緒の高校に行こう。
桜田君も一緒に――――
了
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