無題1 (2020.1.27)

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無題1 (2020.1.27)

無題 「……あーあ、考えてもわからないや」 真っ白い、まるで冷たい豆腐のような部屋の壁を体育座りの姿勢でじっと見つめながら妃奈(ひな)はそんなことを呟く。 「考えたって結局行動ってのはその場の判断でしかないだろ?うだうだしたって始まらないぞ」 その隣で壁に体当たりをしながら千夏(ちか)はそんな言葉を返した。 かれこれ一時間ほど体当たりを続けている彼は、息遣いが荒くなっている。 はあっ、はあっと余裕のなさそうな音が部屋に響いた。 「考え無しにそんな事するから体力がなくなるんでしょ?食べ物だってないのにどうするつもりなの?」 妃奈は苛立って千夏にきつく言い放った。 彼女だって部屋から出たくないわけではもちろんなく、じっと出られる方法を考えてはいるのだ。 ただ、リスクを考えずに動き出す目の前の千夏が思考の邪魔をしているのだが。 「だってじっとなんてしていられないだろ? 思い立ったらとりあえずやってみんだよ!俺はそうやって生きてきたんだ」 「いつもその尻拭いをしてきたのは誰よ?私だからね? あんたさ、私がいなきゃ今頃死んでるってわかってんの?」 言い忘れていたが、妃奈と千夏は俗に言う幼馴染というやつだ。 いつも飛び出していく千夏に巻き込まれながらもなんだかんだ手助けしている妃奈は、彼の身勝手な行動に十年以上冷や冷やさせられてきたのだ。 過去のあれやこれやを妃奈が脳内で反芻させていると、いきなり千夏の顔が目の前に現れた。 「えっ、あ!?……なによ」 「いや、俺も思い出してたんだけどさ。 ……やっぱ飛び出すのはやめられないんだよ。性分だしな」 「あのねぇあんた、私がどれだけ心配して……」 「それとさ。 君が心配して、助けてくれるからこそなんだ。 何かあったら君がいてくれるだろ?だから俺は動けんだよ。今日だってそうだ。 結局さ、俺が思いきってやった事って、上手くいくこと多いだろ? でも、それは俺が突発的な行動を取ったのが始点だけど、君が助けてくれたおかげで俺の無謀な計画が上手くいったってだけなんだよな。 馬鹿みたいだけど、そんな俺を、俺は信じてんだよ。 君がそばに居てくれることで成立する、俺の行動力を信じてんだ」 千夏はそう言って妃奈の頭をわしゃわしゃと撫でた。 「な、何言ってくれてんのよ……。 こっちは、あんたがいきなり飛び出すからついていかざるを得ないし、怪我したら手当しなきゃだし、冷静になってあんたが方向間違えそうになったら引っ張らなきゃいけないし! 本当……毎回毎回……! 脳内フルパワーで考えてんのよ!あんたのために!あんたの頭脳になってやってんの! でも……本当に……楽しくてさ……っ」 千夏の手からくる熱のせいか、じわりと身体が暖かくなる。 頬には何かが伝っていた。 「マジであんた…私に感謝しなさいよ……!」 「へへ、もちろんだ。いつだって感謝しっぱなしだっつーの」 千夏はそう言うと妃奈の両頬をぷにっとつまんだ。 「にゃにすんのよ」 「なんでもないですー」 そして再度頭をひとなでして、彼は壁に向き合う。 妃奈も千夏と同じ方を見据えた。 「……やっぱあれか?これってさ、〇〇しないと出られない部屋ってやつか?」 「無理やりこじ開けるような行動取っておいてその結論ってどういうこと!?!?!」 妃奈はあまりの驚きに体育座りのまま横に倒れた。 「あはは、ダルマが転がったみたいだな」 千夏は振り返るとクスッと笑う。 「これ以上何か言ったら口を縫うよ」 「あれれ、君裁縫は苦手だったよな〜?」 「うっ…それは……」 妃奈は顔を赤くしてうずくまった。 千夏に丸め込まれるといつもこうだ。 いつもは勝てる相手に不意にこういうことをされるのは慣れていない。 「はは、ごめんって。 でもさ、こういう部屋ってTwitterの絵師さんがよく描いてる例のシリーズとしかもう思えなくて。 君もそうだろ?随分考えてたけど、良い案は思い浮かんでなさそうだし」 千夏はまた壁にひとつ体当たりをすると、ため息を吐いた。 「そーだよ。悪かったね! ……でもそれならさ、どっかに書いてあるんじゃない?何をするとか」 「やっぱそっかー」 千夏はどすんと床に座り込んで頭をかいた。 お腹も減り、体力もあまり残っていない。 ??「あっ書き忘れた!めんごめんご!」 「ねえ、なんか変な声聞こえない?」 妃奈はまるで野々〇竜太郎のように耳をそばだてた。 「天の声……ってやつ?こんなメタメタしい部屋でいいのかこれ」 千夏も同じポーズを取ると、わざとらしい咳払いの声が聞こえた。 どうやら本当に天の声らしい。 「いやあごめんね、ほんと。寝不足で掲示をすっかり忘れてたわ。マジごめん。気づかずに三時間くらい閉じ込めてたみたい」 「まっっったく反省の念がこもってない謝罪だね」 「同感だ」 二人はため息を吐くと床に寝っ転がった。 「ねー、早くここから出たいんだけどさ、お題はなんなの?早く教えてよ」 「そうだぞ。二人でこの後出かける用事もあったのにさ」 すると、少しの沈黙があった後、天から盛大なため息が聞こえてきた。 「……あのさぁ……あの、あのね? お二人さんさ、そんなイチャコラされてもね。目のやり場に困るわけ。ね? わかる?現実世界に尊さの足りないおじさんには少し刺激が強いのよ……いいなあ……青春…。 閉じ込められてからの流れも今見た。VTRで。 もう私満足したわ。おなかいっぱい。おけおけ。OK牧場。 だから出ていいよん」 そしてブツっと音が切れる。 「え、え〜…。こんな唐突に終わるわけ? 私たちの三時間は????」 「まあいいんじゃない?俺も本音言えたわけだし。じゃあ、元の世界に戻れたらその一時間後に古井戸駅に集合な?約束」 千夏は起き上がって、妃奈のおでこにデコピンする。 「お、おう……分かった」 徐々に二人の視界は暗くなっていき、微睡みが支配していった。 「遅いよ千夏!一時間後って言ったじゃん!」 古井戸駅北口で寒さに震えていた妃奈は、千夏の姿を見るやいなや駆けてきた。 「そーだったっけ?なんか変な夢を見てた気がしてな、意識が覚醒するのに時間かかった」 「つまりは二度寝したと?」 「そゆこと」 千夏は大きな欠伸をすると、ポケットの中をまさぐり、二枚のチケットを取り出した。 「はい、これ今日のチケットな。 無くすなよ〜」 千夏は歯を見せにこりと笑った。 「あんたにだけは言われたくない! ……じゃ、行こっか」 「おけ〜!でさでさ、この展覧会行ったあとは電車乗り継いでここに夕飯食べいこうぜ!」 千夏はそう言うと逆のポケットからくしゃりとしたパンフレットの切り抜きを取りだし妃奈に見せる。 そこにはとても美味しそうな海鮮料理の写真が並んでいた。 「は??ちょっと、特急列車使うの?? そんなにお金もってきてないからね?」 「チケット取っておいた〜」 千夏はサラッとバッグからチケットを取り出すと、妃奈にドヤ顔で見せびらかした。 「さてはあんた、それで遅れたな!?!?」 「へへ、どうでしょう〜? ……君がいるからこそ、だかんね」 「えっ……それはどういう意味……」 「ほら行くぞ!遅れんなよ!」 「ちょ、待ってよ千夏!てか遅れたのはそっちでしょ?!?!ねえってば!!!!」 二人の笑い声は明るい空にこだまし、美しい光が空を彩っていた。 おわりりりりりりりりりり(爆死) *あとがき* あとがきなんて要らなかった気がする。適当ですしねこれ。 まあひとつ言えることがあるとすれば、千夏のモデルは私です。そして妃奈に言ってることは、私にいつも付き合ってくれる友人やその他お世話になっている人への思いでもあったりします。 突発的でほんとうに申し訳ない。でも直りそうにない。君たちが寄り添ってくれたり、冷静に意見してくれるのにはほんと助けられてるんだ。 …もっと妃奈みたいに怒ってくれていいよ笑 そうそう、もしこれを読んでくれた人がいらっしゃいましたら、こんな(本当に)突発的に書いた短編読んでくれてありがとうと言っておきたいです。では、良い一日を。
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