第3話 心って何だ?

1/1
前へ
/6ページ
次へ

第3話 心って何だ?

誰かの手によって組み立てられていれば、「心」ではなくなる。 彼にとって、ロボットは全て同じに見えるらしい。 技術的な知識が薄い一般人なんて、こんなものかもしれない。 どちらかというと、哲学者の傾向が強いか。 「ああ。悪かったね、ちゃんと聞けばよかったかな」 多分、タバコを許可もなく吸い出したことに対する言葉だろう。 別に俺は気にしていない。 あまりにも自然な動きだったから、癖になっているのだろう。 白い煙は空高く昇り、灰がぽとりと地面に落ちた。 今夜は比較的暖かい。外で長話をしても苦にならないのだろう。 「なあ、アンタのいう心って何だ?」 これは俺の純粋な疑問だ。 これまでIに対して、様々な意見を見た。 彼の存在に対して、手を挙げて賛成する人間もいた。 彼の価値に対して、拳を振って否定した人間もいた。 しかし、淡々と事実を述べただけの人間はいなかった。 死にかけの人間から相談される日々の中で、何を見出したのだろうか。 導かれるような何かがなければ、あそこまではっきりとは答えないはずだ。 「私が先に言ってもなあ……じゃあ、君の言う心とは何だ?」 質問を質問で返されてしまった。 彼なりの意見があるみたいだし、先に聞いても仕方がないか。 「『あらゆる大義名分の根底となるもの』であり、『言語による統制がされて、初めて形となるもの』である、とか?」 俺の主人がよく言っていた言葉をそのまま引用する。 自分の研究についてまとめた論文でも述べていた。 かなり気に入っていたフレーズだったようだ。 理央は意外そうに笑った。 「よりにもよって、その言葉を引っ張ってくるか。 エルダのファンだったのかい?」 「ファンっていうか、俺のマスターだよ」 二人で顔を見合わせ、お互いに目を大きく見開いた。 えっ、何言ってんの。 自分自身に対するツッコミでもあり、俺の言葉に対する理央の驚きでもある。 この人には関係のないことなのに、ぽろっと口から出てしまった。 そこまで心を開いた覚えはないんだけどな。 「通報したけりゃ、通報しろよ。 俺の首を研究機関に差し出せば、ヒーローになれるよ」 俺には多額の賞金が課せられている。 記憶が正しければ、ゆうに数千万円は超えていたはずだ。 賞金目当てに襲ってきた奴らも、いたことにはいた。 しかし、それは行方不明になる前の話だ。 俺がまだ、エルダと暮らしていた頃のことだ。 彼女が捕まって、俺が行方不明になってからというもの、誰も来なくなった。 未だに俺を探しているのは、研究機関くらいなものだ。 その賞金の額はどのくらいになっているのだろうか。 賞金そのものを撤回したか、金額を吊り上げたか。 いずれにせよ、俺を狙う人物は格段に減った。 「そんな形で億万長者になってもな……君とはもう少し話してみたいし。 今日のことは黙っておくことにするよ」 開き直った俺を見て、理央は苦笑いした。 自慢するならともかく、黙っておくとは、何とも物好きな奴だ。 彼がそういうのであれば、墓場まで持っていくかもしれない。 「けど、他人の言葉を引っ張ってくるのはちょっとズルいよね。 君の口から、心の定義を聞いてみたいな」 まあ、言われてみれば確かにそうか。 俺の意見を聞きたがっているわけだし。 心の定義か。考えたこともなかったな。 エルダの言葉の通りのものだと思っていたし、まさにその通りだった。 そして何よりも、俺にとっては邪魔なものでしかなかった。 彼女を裏切るようで申し訳ないが、本当にその機関は必要だったのだろうか。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加