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23.影
検査やリハビリをしながら過ごす日々が数日続き、ふとケイは不安になる。
「サリー、俺の生活費、全部払わせてるよな?」
「うん、そうだけど?」
「……すまない。そこでひとつ提案があるんだ」
「何? お金のことなら心配いらないよ。それなりに持ってるから」
「いや、養われっぱなしというのもどうかと思うので、仕事をしたいと思う」
「えー、大丈夫かな?」
サリーは不安そうと言うより不満そうな表情浮かべる。
「俺としては、ケイともっと一緒にいたいんだけどな」
「それも問題だから外に出ようと思っている。サリーは俺にくっつきすぎだ」
「えーー! だって恋人でしょ?」
「……その、ダイナミクスのパートナーであることは認めるし、有難いと思っているが、恋人とは……だから言っている間に手を握らないで欲しいんだが」
困惑しながら、ケイはサリーの手を引き剥がす。
とにかく隙あらばイチャイチャしようとするサリーにケイは戸惑っていた。
「とにかく、多少でも生活費を入れさせてくれ」
「んー、ケイがソコまで言うなら、デニスジジイに連絡してみようか」
「デニスと言うと、先日手の修繕に来た老人だな。確か修理屋をしていたと言っていたな」
「うん、まーなんか簡単な仕事ならあると思うから聞いてみるよ」
サリーは携帯端末をポケットから出すと、電話をかけて、デニスと何やら話し始める。
「うん、わかった。じゃあ今日はそれでお願いするよ」
「何か俺に出来そうな仕事はあったか?」
「とりあえず、ジジイんとこの倉庫の整理をして欲しいって。重いものとか結構あるから、ジジイだけじゃなかなかはかどらなくて困ってたんだって」
「よし、わかった。それでデニスの店と言うのはどこに?」
「案内するよ」
サリーに案内されて向かったデニスの店は、サリーの診療所があるところより、更に治安が悪そうな地域にあった。
「こんなところで店を開いて大丈夫なのか?」
「こんなところだから、需要があるんだよ。ほら、ここがデニスジジイの店」
ラクガキをされたままの閉じた2枚ほどのシャッター横に、ごく平凡な、しかし頑丈そうなドアがついている。
よく見ると、スコープがついていて、中から来客は見えるようだった。
「ジジイー、ケイ連れてきたよー」
「今開けるから、ちょっと待っとれ」
しばらくすると、重い錠を動かす音がしてドアが開いた。
「お邪魔しまーす」
軽い挨拶と共に内側に滑り込むサリーを追うようにケイも店内に入る。
何故シャッターがあったのか、ケイはようやく納得がいった。
「車の整備もやっているのか」
「だから、何でも直す、って言ったじゃん」
(確かにシャッターがなければ、店内に車は入れられないな)
「あんたはケイ、だったかね?」
「はい、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ雑用で済まんが頼むよ」
そう言ってデニスが案内した倉庫は、何というかカオスだった。
「これはなかなか……」
「とりあえず、重いのやかさばるのと、細かいのを、ざっと分けてくれれば助かる」
「承知した」
「じゃあ俺は診療所に戻るね。夕方迎えに来るよ」
そう言ってサリーは自分の仕事に戻っていった。
「何があるか分かるかい?」
デニスに声をかけられ、ケイは一番近くにあった物に手を置く。
「これは油圧シリンダー。大きさから言って、大型のショベルカーにでも使う物か?」
「ほう、正解だ」
「あとあっちの棚にある部品は……物騒だな。遠距離対応型のロケットランチャーのパーツだろう。横の箱は恐らく実弾」
「うんうん、分かってるようだな。じゃあ、お前さんのやりたいようにやってくれ」
「しかしざっと見た感じ、武器や大型車両に関する物が多いな」
「物騒な街だからな。それにどうも最近この辺りで軍がウロチョロしてるみたいでな。後ろ暗い奴らは何かあったときに備えておこうって思うのが増えてきてな」
「軍……」
ケイはサリーに言われたことを思いだす。
(俺の動きが陸軍特殊部隊のものだと言っていたが……それに関係があるのだろうか?)
一抹の不安を感じながら、ケイは作業を始めた。
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