24.整理整頓大事

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24.整理整頓大事

デニスの倉庫はとにかくカオスだった。 (任されたからには、なるべく整頓しておいた方がいいな) 一応鉄骨を組んで、その間に鉄板を打ったシンプルな整頓棚のような物はあった。 (大きさ別か、用途別か……用途別だな) 明らかに武器転用が出きるもの、及び武器と明確にわかるものと、そうでないものを大きく分けていくが、そこでケイはあることに気づく。 (俺、こんなに力があるのか?) 確かに体型からすれば、標準的な成人男性よりも重いものを持ち運べるだろう。 だがその予想を遥かに越えた重さのものを持ち上げたときは、思わず驚きの声をあげてしまった。 「これが全身サイバネティックということか……」 渡された軍手からの伸びる腕は、生身と何一つ変わらないように見える。 「……まあ、 便利といえば便利だな」 大物を分けるのに避けておいた雑多なものに手をつけようと思っていたところで、デニスが呼びに来た。 「そろそろ昼にしようかと思ってな。おお、かなり片付いたみたいだな」 「まだ大きなものだけだ」 「それがワシには難問だったから助かるよ。ホレ、まずは飯にしよう」 今日は嫁が出かけてるから、こんなもんしかなくて悪いな、とデニスが出してきたのは、ポタージュスープと大きなプレッツェルだった。 小型の固いスナック菓子のようなものに比べると、ややパン感はあるものの、それでも固い。 デニスはそれをポタージュスープに浸してからの食べるが、ケイはそのままかぶりつく。 「旨いな……」 「うちの嫁のプレッツェルはこのあたりじゃ一番旨いぞ」 自慢げに言うデニスはどうやら愛妻家のようだった。 「そういやサリーが始めてこいつを食べたときビックリしてたな」 「なにか驚くようなことがあるか?」 「表面の塩の粒をザラメだと思ってたみたいで、『しょっぱい!』ってな。アッハッハ!」 「サリーは遠くから来た人だからな」 「でもあの男は、違うことを楽しむ奴だからな。悪い奴じゃない」 「ああ、そう思う。俺みたいな記憶喪失を拾って、面倒を見てくれてる」 「油断はすんなよ。お前さんが金持ちだとわかったら、途端に大金吹っ掛けてくるかもしれんぞ」 「それは怖いな」 笑っていると、端末が震えた。 サリーからの通信だった。 『ヤッホー、ケイ、調子はどう?』 「順調だ」 「お前さんより役に立ってるぞ、ケイは!」 『ひどいなあ、ジジイってば。ケイ、体調が少しでも変だと思ったらすぐ連絡をいれるんだよ』 「わかった」 通信を切るとデニスがにやにやしているのに出くわす。 「随分あいつは過保護なようだな」 「先日……サイバネティックスの不具合で拒否反応を起こしたから、心配なんだろう」 「そりゃまた難儀な。あんまり無理はしないどくれよ」 「ああ、出来る分だけやらせてもらう」 そうして午後を費やして終わった倉庫掃除の結果は、驚くものだった。 「思ったより多い物もあったな……」 「あなた使いきる前に、新しく注文したの開けて使い出すからよ。前から注意してたじゃない」 午後になって帰ってきたデニスの細君は、仕事を終えたケイに上機嫌でコーヒーをご馳走してくれた。 ゴチャゴチャの倉庫を耐え難く思っていたのは、デニスよりむしろ彼女の方だったらしい。 用途別に分かれしかも細かいものはきちんと箱や袋にまとめられている様子に、とても気をよくして、残っていたプレッツェルをお土産に持たせてくれた位だ。 そうこうしていると、サリーがケイを迎えに来る。 「お疲れ、ケイ。今日はどうだった?」 「まあまあだな」 「まあまあ以上の仕事をしてくれたよ。ほら、給金はちょっと弾んでおくよ」 手持ち金庫からデニスが出してきた札を受け取り、ケイは頭を下げる。 「今日一日、仕事を与えてくれてありがとうございます」 「そんな頭なんて下げなくていいだろうよ。こっちこそ面倒な仕事をやってもらって助かった。また何かあったら声をかけてくれ。何ならこっちから声をかけさせてもらうよ」 「そうしてもらえるとありがたい」 「初仕事は大成功だったみたいだね。よかったねケイ」 ニコニコ顔のサリーに何故かほっとしながら、二人はデニスの店を後にした。 「今日はこのままガブリエラの店に行く?」 「そうだな、動いたせいか、空腹だ。ああ、プレッツェルをお土産にもらったから、明日の朝食にしよう」 「いいねー。デニスの奥さんの、美味しいんだよね。楽しみ!」 そんな会話をしながら歩いていると、曲がり角で急ぎ足の青年とケイはぶつかってしまう。 「あっ、すみませ……」 「大丈夫か?」 よろめいた相手を気遣うように手を伸ばしたケイの顔を、青年はポカンと見つめていた。 「ケーニヒ……中尉……まさか……」 青年の様子に、二人は顔を見合わせる。 (ケイの記憶を取り戻すチャンス?) (ああ、だが、何かわけありのようだ) 小声で短く会話を買わしている間にも青年の顔色は青ざめていく。 「いや、そんなはずはない……だって、中尉は……」 よく見ると、彼の着ているのは軍服だった。 「行こう」 青年が茫然自失となっている隙に、サリーはケイの手を引いて、雑踏に紛れる。 (こうなる前のケイを知っている人が出現した……) それは、ケイとの生活が終わりに近づいている事を意味していた。
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