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プロローグ
街中で空は青く晴れ渡ることが少なくなった。
テクノロジーと機械じかけの体と、それでも消えないひりついた欲望。
俺は古い時代を残したこの街が嫌いじゃなかった。
かつてミツバチの名前を冠した街は、今やその蟲の気配さえない。
いつものように、ババアのカフェに飯を食いに行こうとねぐらを抜け出すと、薄暗い路地裏のごみと反吐でぬかるんだような場所にそいつはうずくまっていた。
(死体、じゃないな。まだ生きてる人間だ)
いちおう俺だって医者のはしくれだ。助けた方がいいだろうという気持ちと、好奇心旺盛などこかの金持ちが路地裏をふらふらして、チンピラに絡まれてそうなってるとしたらいい金蔓だという気持ちが3:7ってところだ。
「おい、そこのアンタ。まだ息はあるだろ? 俺は医者だ」
「いしゃ……?」
声に反応してのろのろと顔を上げたところを見ると、意識も運動系統もそういかてれないらしい。しかしその体の下にはぬめぬめとした液体が広がっている。
「血、じゃない。人工血液だな。アンタ、サイバネティックなんだろ?」
「サイ…?」
のろのろと俺を見上げた瞳は、子供の頃見たっきりの、青空の色をしていた。
「アンタ、きれいな目してるな……。よし、特別に助けてやるよ。そのかわり、一発やらせろ」
「いっぱ……?」
「ああ、なんでもいい、とにかく行くぞ」
俺はその男の腕をつかむと、ぐっと肩に担ぎ上げる。
やけに硬い感触は、男の腕が金属ないしセラミックであることを告げていた。
(腕まるごと全部……感触からするに、胴体部分もこっち半身は機械化してるっぽいな)
「あんた、誰だ?」
「へえ、オウム返し以外のことも喋れたか。俺はサリー。この街の……まあ、闇医者みたいなもんだ。安心しろ、腕は確かだし、サイバネティックの修理もできる」
「俺は……助かるのか?」
「ああ、まかせろ」
青い瞳が安心したようにまぶたの向こう側に消える。
「おいまて、まだ気失うのは早いだろ! あと200m頑張れ」
気を失ってくそ重くなった体に、俺は悪態をついた。
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