浜辺に足を踏み入れて

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私もひと眠りしようかな、ちょうど隣のレイネも静かな事だし。彼女は前半こそ「あれに見えるは何だ?」とたびたび外の風景について質問をしてきたが、今は窓際にたたずむ猫のように、じっと一人で車窓を眺めていた。開いた窓から聴こえてくるエンジンやタイヤの音もさほど気にならず、寝る邪魔にはならなそうだ。 そっと目を閉じ、暗闇の中でこれからの事を考える。その内に自然と眠りに落ちるのが理想だ。今日は暑いから体力を消耗しそうだ、コースは20数キロある事だし途中で何回休憩を挟んだらいいだろうか。地元の名物と呼べる食べ物はどれくらい見つかるだろうか。考える事は尽きず、外界との距離が少しずつ遠のく。寝るにはいい状況だ、もう少ししたら考え疲れて寝てしまうだろう。 「ん?」 何かが口にそっと入ってきた。石みたいにゴツゴツした硬い感触がありながら、それでいて少ししょっぱい。 目を開けると、口に500円玉よりひと回り大きいサイズの円いおかきが挟まっていて、前の席の千佳ちゃんがクスクスと笑っていた。 「ちょっと千佳ちゃん! 勝手におかきを口に入れないで!」 「だって、口半開きで寝てたんで、入れたら吸い込むかなぁって」 千佳ちゃんのいたずら癖が発動した。吸い込む訳無いでしょ、ブルーレイレコーダーじゃないんだから。 「寝てるんだから邪魔しないでよ……」 「えー、つまんなーい」 もう高校生なんだから、子供っぽいマネはしないで欲しい。こういう所が瀧本君とケンカする原因になっているのに。私はくわえ直したおかきをディスク裁断機のごとくバリバリと噛み砕いた。
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