67人が本棚に入れています
本棚に追加
浮月さんによって種類が特定されたイカは、全体的に茶褐色で無数の横縞に唇の形に似た模様があった。魚屋さんの品物のように鮮度が良く見えるが、動き出す事は無かった。
やっぱり本物の海は水族館とは違う。美しい景色ばかりでは無く残酷な光景を目にする事もある。さっきは仰向けになって朽ち果てた海鳥のグロテスクな姿を見て、身の毛のよだつ思いをした。それを見なかった事にしようと記憶の底にしまい込んでいたけれど、こうも続けて生き物の死んだ姿を見せられると、大自然の厳しさを感じずにはいられない。
「詩乃ちゃん、海に戻してあげなよ」
「何で私が?」
「だって、あたし生物触れないガールだもん」
「だからって、なんで私が?」
私だってイカを素手で持ちたくは無かった。相変わらず千佳ちゃんは自己中だ。
「詩乃、海の生き物の亡骸は海に還すのが礼儀であろう」
「そういうものなのかなあ……」
レイネはレイネで、よくわからないしきたりを真面目な顔で説いてきた。
「わかったよ、やればいいんでしょ……」
彼女の言葉の妙な説得力に押されて、嫌々イカを海に戻す事にした。
「イカって、どうやって持てばいいんだろ……」
とりあえず、胴体と足の部分を両手でお姫様抱っこのようにして持ち上げた。
最初のコメントを投稿しよう!