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ひんやりぬめぬめした感触は不気味だったが生臭さは無く、足や腕がからみついてくる事も無い分、思っていたよりはだいぶ平気だった。
「早川さん、頑張って!」
森田さんが、一歩ずつ海へと向かうおくりびとな私の背中に向け、バシバシとシャッターを切る。こんな微妙なシーンを撮る必要があるのだろうか。
「詩乃ちゃん、こっち向いてよー!」
「うるさいなあ、ちょっと静かにして!」
人がせっかくイカを運んでいるというのに、千佳ちゃんが余計なちょっかいを出してきた。振り返ると、彼女がスマホを構えてカメラ目線な私の写真を撮ろうとしていた。全く、今はそれどころじゃないんだから。
ここで私の注意は完全に千佳ちゃんへと向き、後ろから来る物に対して全く気付けなかった。
ザザザ――――――!!
「うわ、冷たい!!」
速い波が押し寄せてきて、避ける間も無く私の足首を包み込んだ。スニーカーが中まで水浸しになり、その衝撃で手が滑ってイカを落としてしまった。
「あはははっ! 詩乃ちゃんトローい」
「もう、千佳ちゃんのせいでしょうが!」
「早川さん、大丈夫!?」
こんな事なら、水に濡れても平気なサンダルを履いておくべきだった。
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