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「あーあ、イカを落としちゃったよ……」
無造作に砂浜に落としてしまい、罰が当たらないだろうか。
海の方に向き直すと、2歩先に落ちていた。波がかかる位置まで持ってこれたのだから、あと少しで海に還せる。気を取り直して中腰になり、下からすくい上げるようにして胴体と足を持つ。波が再びイカと私の足元にぶつかった。
その時、イカの胴体の両側にある薄い羽のような部分がひらひらと動いた気がした。
「もしかして、生きてる……?」
とっさに手を放し、波にイカを引っ張っていってもらおうとしたが、タイミングが遅れてイカは3メートル進んだ辺りで砂に取り残されてしまった。でも、体全体が波打っていて、確かに命の鼓動を感じる。
何とか間に合わせたい、と駆け寄り三度すくい上げたイカの足が私の指にからみついたが、暴れたり墨を吐いたりはしなかった。
波が向かって来ているのを見て、こちらもまるで長靴を履いているみたいに躊躇しないで波に向かう。今度はふくらはぎまで浸かるくらい水が押し寄せ、放流するのにちょうど良さそうだ。
すかさず手を放すと、イカの足が指からほどけ、波に乗って進んで行った。茶褐色のボディがきらめき、魚雷のような推進力で突き進むと、最後は海面からジャンプして母なる海へと潜っていった。
「うっそー!? あれすごくない!?」
「トビウオみたいに飛んだね! いきなりだったから撮れなかったよー」
イカのジャンプなんて初めて見た。後ろで見ていた2人も、衝撃の展開に目を丸くして驚いていた。
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