浜辺で出会うもの

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「詩乃、ご苦労」 「はいはい、どういたしまして」 レイネが上から目線な労いの言葉をかけてきたので、さらりと返す。 「いやー、いい事した後は気持ちがいいよねー」 「千佳ちゃんは何もしてないでしょ」 生物(なまもの)(さわ)れないガールのくせして、図々しくやりがいを感じている千佳ちゃん。仕返しに、今度ウミウシでも見つけたら手渡ししてあげよう。 「イカが水面を跳ねるなんて珍しいわね、お礼のつもりかしら」 浮月さん調べでも、イカのジャンプはレアなシーンらしい。 「イカが恩返しに来るかもしれないね、早川さんの家に」 「お気持ちだけで……」 森田さんにしてはおかしな発想だった。鶴だったら飛んで来れるけれど、イカは陸を這って来ないといけないだろうから気の毒だ。 「ある晩の事でした。家族みんなが寝静まった頃、部屋のドアを叩く音が聴こえたので早川さんが開けると、そこにはイカの姿をした人が立っていたのです!」 「キャー、怖ーい!」 「怪談話みたいじゃん……」 森田さんにも千佳ちゃんのテンションが移ってしまったのかもしれない。夜な夜なイカの怪人に来られたら困るので、「本当にお気持ちだけで充分ですから」と海に向かって念じた。
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