初日の彼女は

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「はぁ……」 期待していただけにショックは大きく、思わずため息をついた。次の授業は苦手な世界史だから余計に憂鬱だ。 その時、突然後ろから肩を叩かれた。 「甘くないほうじ茶で良ければあるけど、要るかしら?」 後ろの席の浮月さんが、小さな水筒を片手に持って私にお茶をすすめてくれた。彼女は物静かでクールな印象を与える子で、話し掛けてもあんまり会話が盛り上がらなくて、入学当初からずっと苦戦していた。だから、彼女の方から話し掛けてくれたのには驚いた。 「い、いいの?」 「ステンレスボトルが小さいから、コップ1杯しかあげられないけど」 口では勧めてくれているが、表情は笑いもせずクールなままなので、彼女の真意がわからなかった。本当は、うっとうしい私の口を黙らせようと渋々提案したのかもしれない。 そう考えている間に、彼女は分けてもらうも気が引ける350mlくらいのサイズの水筒から、付属のコップにお茶を注いでいた。だったら、もらわないのも逆に失礼な気がした。むしろ、冷たい湯気が立っている内にいただくべきだ。 「1杯でも全然いいよ。いただきます!」 私は彼女からコップを受け取り、貴重な1杯を喉に流し込んだ。 ほうじ茶は焙煎した茶葉を使って淹れる為、緑茶には無い独特の香ばしさがある。それがふわっと鼻をくすぐったのはもちろんの事、彼女のお茶には一般的な物よりも濃い目の風味を感じた。たぶん、使う茶葉の量を多めにしているのだと想像がつくが、かと言って泥水のような渋味が出ている訳でも無く、すっきりとした味わいで冷え加減もちょうど良く、喉全体へと心地良く染み渡った。
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