浜辺で出会うもの

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鞍にゼッケンが付いているという事は、この馬は競走馬なのだろうか。競馬好きのお兄ちゃんならわかるかもしれない。 私はスマホのカメラで目の前の馬を撮ると、お兄ちゃんに画像付きで「馬がいるよ」とメッセージを送った。すると、間もなく相手から「今向かっている」という返信が来た。 お兄ちゃん達のバスは到着が遅かったみたいで、私達の後ろから追いかけている途中だそうだ。 どれくらいかかるのかと後ろを振り向いたら、4・5人の集団が走ってこっちに近づいて来るのが見えた。砂ぼこりこそ巻き上げていないが、猛烈なスピードで向かってくるその集団の先頭にいたのは、 「あれ、詩乃ちゃんのお兄ちゃんじゃない?」 うん、間違いなくうちのお兄ちゃんだった。彼は50m手前でペースダウンすると、ハンカチで汗を拭いながら私の前まで歩いてきた。 「お兄ちゃん、何も走って来なくても良かったんじゃない?」 「馬を待たせてはいけないからな」 私と言葉を交わす頃には息も整っており、いつものクールなお兄ちゃんだったが、馬には気を遣っている。さっきも言った通り、彼は競馬が好きで、家ではTVゲームをしたり競馬中継を観ている事がある。もちろんお金を賭ける事は出来ないけれど、それでも充分面白いそうだ。 「お兄ちゃん、このお馬さん知ってる?」 「ああ。……すいません、この馬はあの『ラブチュータコサン』ですか?」 彼が馬上にいるお兄さんに馬の名前を尋ねると、その人は親指を立て「YES!」とにっこり笑って返してくれた。
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