初日の彼女は

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「ふぅ、美味しかった。浮月さん、ありがとう。命の恩人だよ!」 コップの飲み口をティッシュで拭った後、丁重にお礼を言って彼女に返した。 「別に大した事はしてないわ。ほら、もう先生が来てるわよ」 「いけない、準備しなきゃ」 机の右脇に掛けたバッグに水筒をしまおうと彼女が右側に身体を傾けると、アシンメトリーのボブヘアが涼しげに揺れていた。私も今度はこういうスタイルに変えてみようかなと思いつつ、黒板の方に向き直った。 それにしても、今のは結構嬉しかった。私の感謝の言葉に対しても、表情は相変わらずクールなままだったけれど、もしかしたらさっきの記念撮影で少しだけ距離が縮まったから、お茶をくれたのかもしれない。だとしたら千佳ちゃんのノリの良さも悪い事ばかりじゃないなと思った。 2限目の世界史は、『イスラーム世界の成立と発展』についてだ。 喉の渇きが収まって、心にも爽やかな風が吹き抜けて、「さあ頑張るぞ2時限目!」となるかと思いきや、やっぱりそれとこれとは話が別だ。 「イスラーム世界ではムハンマド亡き後、後継者による正統カリフ時代となった訳だが……」 世界史は聞き慣れない単語が多く、イマイチ頭に入ってこない。それだけでも辛いのに、このおじいちゃん先生は声のトーンにメリハリが無く、油断しているとすぐ眠りへと(いざな)われてしまう。 「で、仏教・キリスト教・神道等と同じようにイスラム教にも宗派があって、大別すると2つに分けられる。1つはシーア派、現在はイランやイラク等に多い宗派だね。もう一方は何派か、誰かわかるかね?」
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