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「レイネちゃん、ケガしなくて良かったよー!」
「ははは、お千佳坊は大袈裟だな」
無事を喜んで抱きつく千佳ちゃんの頭を、彼女は妹をあやすようにポンポンと優しく叩いた。普通の人からしたら大袈裟じゃないのに、何を余裕しゃくしゃくな言い方してるんだか。後でみっちりお説教をしないと。
「あれ、田中君がいないよ? 大丈夫かな」
森田さんが、騒動の原因となった彼がいなくなっている事に気が付いた。そう言えば、存在をすっかり忘れていた。彼は、馬が近づいて来た時に後ずさりして転んでしまい、レイネがジャンプした時も、人だかりの外でずっと腰を抜かしていた。
「あそこにいるようだが」
「あっ、いた!」
目のいいレイネが、100m先を走る彼の姿を見つけた。呆れた事に、謝りもせずに逃げるつもりらしい。でも、一度だけこちらを振り向いた彼の顔に悪ガキのような笑みは無く、何かに追われているような怯えた目をしていた。
「あのどぐされチャラーノめ! みんなで追っかけて袋叩きにしよ!」
「だからやめなって……」
千佳ちゃんの彼に対する好感度は下がりっぱなしで、情け容赦ない言葉で責め立てた。気持ちはわかるけれど、彼も最初からこうなるとは思っていなかっただろうし、もうちょっと落ち着いて欲しい。
「……ついて行っておあげなさい」
「うん、わかったよ……」
浮月さんに促されて、取り残されていた彼の仲間達は、その背中を見失わない様走って追いかけていった。
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