聖なる社へ

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「手を開いて」 私が確かめたかったのは、彼女の「手」についてで、他のみんなに聞こえないよう彼女の耳元でささやいた。 「何故だ?」 「いいから」 彼女は何の心当たりも無いようだが、とぼけている可能性もある。握られていた彼女の拳を、右・左と順番に解いてみたものの、中には何も入っていなかった。 「一体、何だと言うのだ?」 彼女からしてみれば、強引に手を広げられて訳が分からなかっただろう。私が確かめたかったのは、 「もしかしたら、さっきの馬のおヘソを持ってるんじゃないかと……」 という疑惑だった。 実は、さっき馬が制御不能になった際の様子で、一点だけ違和感があった。それは、ドローンの急襲にもひるまなかった馬が、彼女が手綱を引いた時にびっくりして立ち上がりそうになった時だ。その後はすぐに落ち着きを取り戻したのだが、彼女がこっそり電撃を放って馬のおヘソを奪って大人しくさせたのではないかという仮説が、今になって頭に浮かんでしまった。私だって本当におヘソを取られた事は無いけれど、おヘソからエネルギーを吸い取られるとだるくて元気が出なくなってしまうから、そう無理な話では無い。 「たわけ! そんな非道な振舞いをする訳が無かろう!」 しかし、彼女にとってはとんだ言いがかりだったようで、小声ながらはっきりとした口調で否定した。
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