聖なる社へ

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ここでは上下を行き来する車ですら、アクセルやブレーキをサボったら転がり落ちてしまいそうだし、ここがゲレンデだったら確実に上級者向けコースだろう。私達の少し先にも、他の生徒達が時折中腰になりながら、息も絶え絶えな様子で坂越えに悪戦苦闘している姿が見られた。 千佳ちゃんも森田さんもしんどそうに歩いているという事は、当然レイネの体調が心配になってきた。彼女曰く、「雷は地面を長く歩かぬものなのだぞ」と、少し歩くだけで疲れる体質だから、一声掛けておいた方がいい。 「レイネ、大丈夫?」 「ちと苦しいが、たまには鍛錬も良いであろう。今は蜜柑と茶の香りを楽しんでいた所だ」 「私にはその匂い、入ってこないなあ」 近くにはミカンの木も茶畑も見当たらないが、この辺のどこかにはあるのだろう。彼女は人間の私達より鼻が利き、少し遠くの匂いまで感じる事が出来る。ああ、先月駅前で起こった事件の時も、この力が役に立ったっけ。とりあえずまだ余裕がありそうだ。 200m歩いた辺りで平坦な道に行き着いた。そこは分岐点のような場所で、左右に伸びる緩やかな下り坂と、左斜め前方に繋がる上り坂が目の前にあった。神社への道を示す案内板は無情にも上り坂の方を指していて、沿道の木々が創り出す薄暗い参道は、私達の登る気力を大幅にそぎ落としにかかっているように感じた。 「ねえみんな、神社行くのやめて左の道を下ろうよー!」 千佳ちゃんがギブアップを宣言した。左の坂を下れば、元来た道を引き返さずに浜辺に行く事が出来るので、ロスを最小限に抑える事が出来る。諦めるならこのタイミングしか無いし、彼女の気持ちはよくわかる。
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