聖なる社へ

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ここから先は草木が生い茂っている為、登る前に対策が必要だ。 まずは虫に刺されない様、千佳ちゃんが持っていた虫よけスプレーをみんなにかけてくれた。そして、草木にかぶれない様、袖の短い人は上着を羽織って素肌をカバーした。私はTシャツの上から薄手のパーカーを、浮月さんはカーディガンを、千佳ちゃんは……、「暑いから」という理由で何も羽織らなかった。 暑がりな千佳ちゃんはさておき、一枚羽織ったのは正解だった。坂を登るにつれて、日当たりが悪くなり肌寒く感じられるようになったからだ。頭上にかかる枝葉の密度はそれほど高くはないのに、木漏れ日のきらめきは大幅に遮られ、坂の上からは冷たい空気が流れて来た。 寒気を催したのは、気温のせいだけではない。カラスは高い枝の上でけたたましく鳴き、側溝にはアオダイショウが這い、崩れて苔むした石垣は亡霊が宿っていそうな雰囲気を醸し出し、何とも不気味だった。神社と言えば、静かな森や林の中にあるイメージなので、何となく目的地に近づいているようだが、こんな所にあるのは呪いの社ではないだろうか。 「気味悪いなあ……。足もだるいし今からでも遅くないから下山しようよー」 「今更何言ってんの……。ほら、あと少しじゃん」 「やだ! もう動かないから!」 怖気づいた千佳ちゃんが、坂の途中でしゃがみ込んでストライキを始めた。こうなると、思いっきり腕を引っ張ろうがひじが抜けたって動こうとはしないだろう。こういう所は幼稚園の時からまるで成長していない。 「もう知らないよ、置いてくから」 私は彼女の成長を促す為、心を鬼にして他のみんなと先を進む事にした。 後ろを気にしつつ、20・30・40mと進んで行くが、彼女はまだしゃがんだままだ。坂は左にカーブしているのでもうすぐ姿が見えなくなってしまう。もう、いい加減意地を張っていないでついてくればいいのに。
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