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小さな社の前に立つと、拝殿と比べてだいぶスケールが小さいが、塗りが剥がれて燻製のようにすすけた柱は歴史を感じさせ、これはこれで独特の威厳と味わいがあった。
「どんな神様を祀っているんだろう」
「かつて当地を支配した豪族の一人のようだ。❝豊漁❞と❝学業成就❞のご利益があるらしい」
レイネが立札を読みながら解説してくれた。豊漁は海に近い土地柄なのでわかるが、学業成就は意外だ。勉学に熱心な人が祀られているのだろうか。
私は、なけなしの5円玉のストックを彼女と同じタイミングで賽銭箱に投げ入れ、中間テストで赤点を取らない様強く願った。
「これで終わったね」
「いや、次はあそこだ」
これで彼女の気が済んだと思いきや、今度は更に先にある別の社を指差した。彼女について行くと、さっきの社よりもさらにコンパクトな社の前に着いた。朱塗りの柵に囲まれた中に、実物大のお稲荷さんの石像1体と1m四方の社が建っている。ここもしめ縄と賽銭箱があるので神社に違いないが、それが無ければキツネ小屋と言われても納得してしまいそうなスケールだ。
「ここはいいんじゃない?」
「詩乃よ、依怙贔屓はいかんぞ。狐が鳴いておる」
「わかったよ……」
石像がコンコン鳴く訳も無いが、お稲荷さんに祟られても困るので素直に祈りを捧げよう。
「ここはどんなご利益があるの?」
「❝商売繁盛❞らしい」
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