下り坂はブレーキをかけて

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下り坂はブレーキをかけて

休憩所に戻ると、外にある木製のテーブルにみんなが待っていた。そこでずっと休んでいた千佳ちゃんと浮月さんに、写真を撮っていた森田さんも先に合流しており、これで全員が揃った。 「みんなお待たせ。じゃあ行こうか」 「待って! その前にちょっとだけ頼まれ事を受けてさ」 「頼まれ事?」 「お店の人から『みんな集まったら来て』って言われてるんだ、ね?」 千佳ちゃんの言葉に浮月さんが静かにうなずいた。彼女が言うには、浮月さんと2人で私達の帰りを待ってた時、お店の人に声を掛けられ、あるお願いをされたとの事。 一体何だろうと思いながらも、「いいから行こ!」と千佳ちゃんが急かすので、イスから立ち上がった彼女の後をついて行く事に。 この休憩所はカフェとお土産処を兼ねた建物で、古民家らしい風情ある黄土色の壁を伝って裏手に回ると、 「お姉さん、みんな連れて来たよー!」 「あら、いらっしゃい! 来てくれてありがとうね」 外の水場で作業をしていたお店の人が、手を止めて私達の所まで来た。今日が初対面だというのにとても気さくな人らしく、まだ水気の残る両手を千佳ちゃんのほっぺたにつけて、冷たさに身震いする彼女のリアクションを楽しんでいた。 接客向きの眩しい笑顔とよく通る大きな声が印象的なお姉さんだ。茶色のエプロンを前に掛け、腕まくりしたチェックのシャツにジーンズの動きやすそうな格好は街中のカフェの店員さんとそう変わらないが、長い黒髪を後ろで束ねているのはおみくじを結んだような白い和紙で、神社らしさも忘れてはいない。
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