下り坂はブレーキをかけて

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「美味しい! すごく飲みやすい……!」 「ありがと。疲労回復に美肌効果もあるから、おすすめだよ」 今まで飲んだどの甘酒よりも美味しかった。程良い甘さでクセも無く、神社の清水で冷やされたそれは、しぼりたての果汁のように新鮮な味わいだ。 「わあ、どんどん飲まなきゃ! のど越しもすっきりですね!」 「でしょう? つぶつぶを()してるから口当たりが滑らかなの!」 森田さんも気づいたのど越しの良さには、そんな秘訣があったのか。手間ひまかけて作られているんだなと感心してしまう。 「流石だわ。飲み込んでいるつもりが、むしろ優しく包まれるような感覚すらある」 「うむ。まさに雲海を漂うが如き心持ちよ」 「きゃー、うれしい! 丹精込めて作った甲斐があったわぁ!」 浮月さんとレイネはソムリエのように大層な言葉を使って美味しさを表現した。特にレイネの感想はスケールが大きすぎてピンとこないが、合わせた両手を左右に振って喜びの舞を踊っているお姉さんの前で水を差すのはやめておこう。 「あら、おチビちゃんは?」 お姉さんが千佳ちゃんに声を掛けた。彼女は好き嫌いが激しく、甘酒も匂いが苦手だった気がする。未だ何の感想も言わないあたり、口に合わなかったのかも。こんな時くらい、お世辞でもいいから「美味しい」と言って欲しいけれど……。 「これウマいね! プリンにしたらもっと美味しいかも!」 「はいはい、今度来る時までに用意しとくからね」 正直な感想が聞けて良かった。このあと全員が1杯ずつおかわりをいただき、瓶の中はすっかり空になってしまった。
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