下り坂はブレーキをかけて

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試飲会を楽しんだ私達は、もう少しゆっくりしたい所ではあるものの、スケジュールの都合で神社を後にした。 入って来た時とは別の方角にある西門を抜けると、会話が出来る程度の小走りで先に進んだ。 「あの神社、サービス良かったねー」 「❝サービス❞って、お店じゃないんだから……。でも、みんないい人ばかりだったよね」 「そうだね」 いい人ばかりだったのは間違い無いだろう。写真を撮ってくれた神主さんに試飲を頼まれたカフェのお姉さん、それとさっき西門を出る時も、近くにいた4~5人の職員の方が手を振ってお見送りをしてくれた。景色もキレイだったし、キツイ坂の上に建っていなければ、もっと多くの観光客が訪れる人気のスポットになっていたと思う。 坂と言えば、今私達がいるのは下り坂の真っただ中だ。海岸まで繋がっているこの坂は、上りじゃないだけでもありがたいのに、傾斜もなだらかで歩きやすい。距離は少し長いがほぼ直線的で、少しずつ海に寄り添うように斜めに延びている為、移動上のロスも少ない。 うっそうとした木々も無く、眼下には濃緑の葉が茂るお茶とミカンの段々畑と、その先にはきらめく水平線を望む、全体的に明るい風景が広がっていた。 そんな風景を楽しみつつも、私達の足は絶えずせわしなく動いていた。 元々、スタートが遅れていたのと神社に立ち寄っていた事もあり、先程地図アプリで計算した所、このままでは制限時間ギリギリでのゴールになってしまう事がわかった。しかも、これには昼食の時間が含まれていないので、それを入れたら完全にオーバーだ。遅れを取り戻す為、しばらくの間は走り続けなければならなかった。
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