下り坂はブレーキをかけて

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下り坂ではブレーキをかけているつもりでも、自然とスピードが出てしまう。 このスピードを活かしつつ、カートを押しているおばあさんを驚かせないよう間隔を取りながら下る。ついさっきまで休憩して余力充分の私達は、走り疲れて徐行気味のランナーも追い越し、浜辺を目指す。 森田さんを先頭にレイネが2番手、中団の私が後方を気にしながら進み、背後の浮月さんに、大きく離されたビリギャルの千佳ちゃんという縦長の隊列で順調に進む。そこに体育の授業でグラウンドを走らされるような退屈さは無く、いつもと違う広大な土地を探索する開放感に溢れている。 ただ、小学生みたいな事ばかりも言っていられない。浮月さんと千佳ちゃんはサンダル履きで、特に浮月さんのはファッション用のコルクサンダルだから足に負担が掛からないか心配になった。考え方によっては、クロスさせた茶色の革が足指や足首を包む『走れメロス』に出てきそうなデザインなので、意外と走りやすいのかもしれないけれど、彼女の前で言うと怒られそうだからやめておこう。 走り続ける内に、左手に見える海との距離はぐんぐん近づき、もう少しで浜辺に合流出来る所まで来た。 出来れば、坂を下り終えるまではこのままスピードを落とさずに進みたかった。なのに、手前には歩道の幅いっぱいに広がって歩いている10人くらいの男女の集団がいて、私達の行く手を塞いでいた。通行の妨げになるので端に寄って欲しい迷惑なその集団の中に、見覚えのある後ろ姿があった。 「すいませーん、ちょっと通らせて下さい……」 「おっ、詩乃ちゃんにレイネちゃんに森田ちゃんじゃん」 「あ、遠山先輩!」 私が恐る恐る掛けた声に振り向いたのは、我らが演劇部の遠山先輩だった。
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